四年と委員長で一戦!




いつものごとく、学園長のはた迷惑な思いつき。当事者達は揃って顔を顰め、最も割を食いそうな人物を思い浮かべる。
その人物といえば、六年長屋に聞こえるほどの絶叫を五年長屋で上げていた。

「やだやだやだおれがボコボコになる未来しか見えないもん!!!」
「そ、それは否定できないけどさあ! 今三郎が学園長先生に粘って救済措置取るようにしてくれてるから!」
「救済措置あったっておれが不利なことは変わらないじゃんか!!!」

部屋から出てこない兵助と、彼をなんとか引っ張り出そうとする勘右衛門。雷蔵と八左ヱ門は困ったような哀れむような表情でその光景を見ていた。
本人の言う通り、さすがに今回ばかりは兵助が不利すぎる勝負だ。正直自分達が当事者じゃなくて良かったと思うほど。

「あらら、やっぱりゴネてたか」
「三郎」
「なんとかなったか?」
「まあ一応。君らもちょっと覚悟しといた方がいいかも」
「「え」」

するりと戻ってきた三郎は、未だに部屋の前でぎゃあぎゃあと騒ぐ五いを見て苦笑すると二人のそばに寄って行く。

「へーすけ、いろいろ調整してきたぞ。使い方によってはお前ならあの人らに勝てるかもしれん」
「うえぇ……?」

もはや涙目になっている兵助と目をぱちくりと瞬かせる勘右衛門に、三郎はニヤリと笑った。




「火薬委員会は二度、他の委員会は一度だけ、今回不参加の五年生と六年生に手伝いを要請できる。…………これ救済措置かなあ?」
「三郎が粘りに粘ってそうなったんだと。元々はおれたちも一度だけだったらしい」
「ええ……」

裏々山。くじで決められた開始地点に到達した火薬委員会は、揃ってため息をついた。
誰に言われるまでもなく火薬委員会が最も不利だ。なんせ他の委員会は会計委員会、作法委員会、体育委員会、用具委員会。火薬委員会が唯一四年生と五年生の組み合わせ。その上タカ丸の忍者歴は一年生と同じ。同じ編入生でも、幼少期から鍛えられていた守一郎の方が忍者歴としては上だ。
勝利方法は、どちらかが身につけている紐を奪うこと。勝ち抜き戦で取られたら負け。最も多く奪った委員会が勝ちとなる。
ただし、取られた委員会はその時点で持っていた紐も全て奪われることとする。つまり最後まで隠れて逃げ切り、残る委員会から紐を奪うことができれば勝ちということ。火薬委員会にも勝ち目が全くないわけではないのだ。だからこそ救済措置もあまり差がないのだろうけれど。

「とはいえ、あの人達がおれたちを狙わないわけがない」
「だよねえ。格好の餌だもんね」
「二度の手助けをどう使うか。……それと、地形をどう使うかだな」

武器は四年生の得物のみ許可されている。まあほぼほぼ四年生の実力試しの側面が強いのだろう。と兵助は推測している。
だとすれば、六年生はタカ丸を狙う可能性が高い。

「あと、紐はタカ丸さんが持っててください」
「ぅえ!? なんでえ!?」

ひょいと手渡され、思わず受け取る。紐は見える場所に身につけるルールだ。確実に狙われる。

「大丈夫、お前の素早さはおれが保証するし、先輩方が狙ってきたらおれが戦うから。お前がすべきことは、」

言い切る前に、兵助がひょいとタカ丸と自分の立ち位置を変える。ふいに降りてきた人影は、誰か認識する間もなく蹴りを繰り出した。
左腕でいなしながら、兵助はタカ丸を見ることなく叫ぶ。

「散れ! どうしようもなくなった時だけ助けて貰え!」
「っ…わかった!」

そしてタカ丸の気配はすぐにその場から消え去った。

「いいのか? 向こうには他の委員会がいるかもしれんぞ?」
「動けないような教育を…っ、してきたつもりは、ないんで……!」

楽しそうに拳を繰り出してくる、相手は小平太だった。とすればタカ丸の方には滝夜叉丸が行っているかもしれない。
四年生ならば良いが、小平太の言う通り他の委員会がいる可能性もある。なんなら最初に自分達を狙うために結託していることも考えられた。

「ほう、意外と信頼してるんだな」
「そりゃあ、ねっ!」

小平太の腕を蹴り上げて後方に飛ぶ。ここでこの人に捕まり続けるのはあまり得策ではない。さっさと切り上げて逃げたい反面、六年生達の動きを知りたい気持ちもあった。
さてどうするか。

「(なーんて、教えてくれる人達じゃないからな)」

ここは逃げるが勝ち。
兵助は小平太から距離をとったまま、更に後ろに飛んだ。この人相手に逃げるのは骨が折れるが、助けはタカ丸のためにも取っておきたい。




<中略>



落とし穴の中では伊作が目を回していた。どうやら喜八郎の罠と三木ヱ門のユリコがピタゴラスイッチになったらしい。三木ヱ門が慌てて穴の方へ駆け寄っている。そこに留三郎も認めて、兵助はそっと気配を消した。今見つかっても大丈夫だと思うが、六年生に見つかると面倒くさい。

「久々知くーん……」
「わ、タカ丸さん。大丈夫?」
「なんとかね……あとごめん、中在家先輩に助けてもらっちゃった」
「いいよ。一回だけですか?」
「うん」
「頑張ったね」

タカ丸はぼろぼろだったが紐は死守したらしい。兵助がぽんと肩を叩くと、タカ丸は嬉しそうに笑った。

「久々知くんが素早さ褒めてくれたから頑張ったよぉ」
「おれは本当のことしか言ってないよ。すごいのはタカ丸さん」
「……えへへ、ありがとう」

たまに元々のガラの悪さを見せる時もあるが、基本的にタカ丸は素直だ。ふにゃふにゃと笑うタカ丸に兵助は微笑む。演習が終わったらしっかり褒めてあげよう。




<中略>




「残念でしたね。タカ丸さんはおれと二人きりの時、兵助と呼びます」
「!? まさかお前ら……」

動揺した相手にニヤリと笑う。それだけで十分。相手は一瞬悔しそうに歯噛みして、その顔を剥いだ。

「ああ、食満先輩でしたか」
「はあ……合言葉とかは考えてたけどよ、そんな暴かれ方は想定してなかったぜ」
「何度も使える手ではないですけどね」

だが、用具委員会はこれでもう助っ人を頼むことはできないはずだ。笑みを浮かべた兵助の瞳に好戦的な光を見て、留三郎も苦笑して構えた。

「戦う理由はないが、四年生の決着がつくまでいくらでも手合わせできるのは良いな」
「やっぱり六年生はそう仰ると思いました」
「よく言う。お前も同じこと考えてただろ」
「そりゃまあ、こんな機会滅多にありませんし」

以前五年生と六年生で戦った時は、兵助は文次郎と、留三郎は勘右衛門と当たった。しかし目的が宝探しだったので戦闘は途中で中止。少し不完全燃焼だったのだ。
兵助と文次郎の戦いのことは聞いている。躊躇いなく寸鉄で目を狙いにきたことも。勘右衛門とももう一度勝負したかったが、兵助とも手合わせしてみたかった。
そして兵助の方も同じだ。

「会計と体育は負け、作法はたぶん漁夫の利を狙ってる。紐を持ってるのは守一郎とタカ丸。火薬はあと一回助っ人が使える。……だから思う存分暴れられるってか」
「あはは。滝夜叉丸と三木ヱ門を戦わせたの、食満先輩と立花先輩でしょう。お互い様ですよ」
「……ま、そうだな」

決着がつかない泥試合になった二人の、腕に巻かれていた紐を守一郎に狙わせた。古い忍術を学んでいただけで、守一郎は忍者としての腕はある。紐を切り、二つの委員会は負けとなった。
あの場に火薬委員会の気配は感じなかったが、作法委員会から聞いたのかどこかで見ていたのか。
全く食えない奴だ。勘右衛門や三郎よりよっぽど。

「じゃあまあ、まだ守一郎達の決着もつきそうにないし、一つ手合わせしてもらおうか」
「お手柔らかにお願いします」



<中略>



タカ丸はにこりと笑った。

「残念でした。ぼくら、まだ助っ人を使うことができるんですよねえ」




<後略>








ーー
オチが決められなかったのでここで終わり。
たぶん火薬はギリギリ勝てないんじゃないかなー


追記 24.01.15 兵助が変装を見破ったとこ「タカ丸さんは二人きりのときは〜」の奴はハガレンネタです。言うの忘れてた



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -