五いで仄暗いお題

title by 「殺らなきゃ、殺られる」10o.

*死亡、流血、殺人描写、年齢操作、未来捏造
*公式の自己解釈含





01.割切らないとやってられない(勘右衛門)

怯える表情、掻き切れそうな叫び声、舞う鮮血。
目に見えるもの、耳に入ってくる音を全て遮断して、ただひたすらに得物を振り回す。
どさりと中身の無くなった亡骸を見て、周囲にいる男達が悲鳴に近い声を上げた。

まるで化け物にでも遭遇したような反応に、おれはにっこりと笑みを浮かべる。





02.今日は譲れない
(映画版園田村)

先輩方に続いて特攻しようとする友人の右肩をぐっと掴む。

「――ッ!」

声にならない声をあげて蹲る兵助。慌てて駆け寄ってくる後輩の肩を軽く叩き、じろりと鋭く睨みつけてくる目は見ない振りをした。

「……ほどほどにしておけ」
「分かってますよ」
呆れたような先輩の言葉に笑って返す。

誰も何も言わなかったけど、むしろ褒められることだけども。
友人が目の前で死にかける恐ろしさを、おれに味わわせるなよ馬鹿野郎。
これに関してはおれら全員怒ってるから、学園に帰ったら身をもって味わえよ。

得物を手に取って、ひらりと駆け出した。






03.舐めて掛かると怪我するよ
(五年い組の水遁の術の段)

「で? いつから気付いてたのさ?」
「んー、あの三人がお前のこと知らないって言った時からなんとなくね」
「最初からじゃないか」
「ま、あんだけ分かりやすかったしねえ」
「意地の悪い奴だな……。わざわざあの子達慌てさせて、さも偶然見つけたみたいに芝居打ってさあ」
「だってその方が面白いじゃん?」
「お前なあ。ま、お陰でおれもあの子達叱らなくて済んだから有難かったけどさ」
「だろー?」
「けどおれの一本釣りはいらなかったと思う」
「いやあれは本気で面白かった」
「お前なあ!」

「……でもさー、兵助もおれのこと気付いてただろ?」
「ん?」
「だって乱太郎達に居所バレてるなら、変わり身の術使うと思うんだよね、普段のお前の場合」
「……つまり?」
「つまりー、本気でおれから逃げるつもりなら乱太郎達に見つかった時点で同じ場所に隠れないってこと! 乱太郎達に見つかったことを利用しておれに見つけさせただろってことだよ」
「いやいや、わざわざ負けるようなことしないってば」
「嘘つけ!」

(意地が悪いのはどっちだか)





04.殺らなきゃ、殺られる(兵助)

振りかぶられた刀を避け、隙の出来た腹に一突き。
声も無く頽れた男に見向きもせず、後ろにいた男の顎に拳を振り上げた。
敵は沸くように出てきて、一瞬の迷いは命取りだ。

くるくると踊るように飛び跳ねて、敵の頸を掻き切る。
敵の表情なんて見る気もない。





05.命の重さ

初めて人を殺した時も、友人が委員会で飼っている生き物が死んだ時も、ああ死んだのかってそれしか思わなかった。
命が消える瞬間なんて今まで何度も見てきたし、家族や同輩が死んだ時ですら、心は痛んでも涙は流れなかったというのに。
皮肉なもんだね。

お前が目の前で怪我を負わされて初めて、おれは命が消えることを怖いと思った。





06.久しぶりの休日

空は晴天、気温は少し暖かいくらい。爽やかな風が吹いて、なんと六年生も実習でいない。
つまり鍛錬に無理やり付き合わされることもない!
とても良い休日だ!

……それなのに。

「なんで洗濯しなきゃいけないんだよぉ」
「仕方ないだろ、ここんとこずっと実習詰めだったんだから」
「だからって! こんないい日に!」
「洗濯物が溜まりに溜まってるんだよ……これ以上溜めるとお前……来るぞ……?」
「え……な、なにがだよ、今更幽霊とかビビんないよおれ」
「いや、それよりもっと怖い」
「へ……」
「うちの伊助」
「そんなことだろうと思ったよ一瞬でもビビったおれが馬鹿だったわ!!」

良い休日は良い洗濯日和に早変わりしましたとさ。





07.裏切り
(とある未来の話・久々知)

「……勘右衛門」
「分かってただろ、お前だってさ」

普段の勘右衛門と何も変わらない様子に笑った。

「……ああ、分かってたさ」

何年一緒にいたと思ってるんだ。
あの学び舎で出会って六年、卒業して、偶然にも同じ勤め先で七年。
それだけ一緒にいたんだから、お前が裏切り者だってことも気付いてたさ。
……でも。

「お前は要領が良いからな。俺が裏切りの証拠を見つけた時には、既に俺が裏切り者にされてた」

そうなってしまえばもうおしまい。
弁明する間もなく、俺はあれよあれよと捕まり酷い拷問に遭った。とはいえ裏切りなど最初から存在しないので、吐くものなど何もなく。
おそらく明日には処刑されるだろう。

「思えば昔から、お前には振り回されてばかりだった気がするなあ」

呟けば、勘右衛門はなんだそれ、と不機嫌そうな声を出した。
気にせず続ける。

「自由人なくせに真面目なところがあって、好き勝手やるくせにいろいろ悩んだり、割り切れてるように見えて実は割り切れて無かったり」
「……何が言いたいんだよ」
「お前のそういう人間らしいところを、俺はとても好いていたよ」

勘右衛門の気配が消えた。
言いたいことはまだあったけど、たぶん伝わったはずだ。
長い付き合いなのだから。





08.この気持ちに気付かなければ良かった
(とある未来の話・尾浜)

拷問のせいで片目は潰され、もう片方の眼もうまく開かないまま、適当な止血処置だけを施された男。
逃げようと思っても逃げられない身体なのに、足と手には枷が嵌められている。
こうしたのは自分だ。
十年来の付き合いのある男を、こうしたのは自分だった。

「……勘右衛門」
「……分かってただろ、お前だってさ」

掠れた声で名前を呼ぶ男に、つい言い訳がましいことを言ってしまう。

「……ああ、分かってたさ。お前は要領が良いからな。俺が裏切りの証拠を見つけた時には、既に俺が裏切り者にされてた」

笑うように口元を歪ませる。
その証拠はもう既にこの世にはない。分かっているのだろう。
おそらく、明日には処刑されるであろうことも。
天然だが、この男は聡い。

「思えば昔から、お前には振り回されてばかりだった気がするなあ」
「……なんだそれ」

しみじみと呟かれた言葉に思わず低い声が出る。
俺の方が、何倍もお前に振り回された。
人間関係を要領よく築く自分とは違い、こいつは時間をかけて人と信頼関係を築く奴だ。
だからこいつはよくいろんな人とぶつかって、その度に俺が仲裁に入った。ぶつからなくていいところまでぶつかって。
そのくせ、最後には強い信頼を得る。
そういうところが。

「自由人なくせに真面目なところがあって、好き勝手やるくせにいろいろ悩んだり、割り切れてるように見えて実は割り切れて無かったり」

含み笑いで言われたことに、ハッと顔を上げる。

「……何が言いたいんだよ」

俺の声は震えていなかっただろうか。
兵助はふ、と息だけで笑ったような気がした。

「お前のそういう人間らしいところを、俺はとても好いていたよ」

たまらなくなって、俺はその場から去った。

(なんで。なんで、なんでなんでなんでなんでなんでッ!!)

なんで最期にそういうことを言うんだよ……ッ!

ああ、お前はいつもそうだ。俺が何をしたって、文句は言っても本気で怒ったことなんてなかった。お前にとって辛いことを提案したって、最後には乗ってくれてさ。俺に何かあると真っ先に心配してくれて、そのくせ自分は無鉄砲に突っ込んで行って。汚いことなんて沢山見てきたくせに、お前はいつでも眩しくて。俺はどんどんどんんどん汚れていくのに、お前はいつでも綺麗でさ。

そういうところが、憎かったんだ。

憎いと思ってたんだ、綺麗なままのお前が。ずっと。
だけど、そうじゃなかった。

(ああ――)

最期に見えた兵助の瞳を思い出す。

(俺も、お前の真っ直ぐなところを好いていたんだ。たぶん、ずっと前から)

何もかもを見透かしたような真っ直ぐな光。
何もかもを赦すような、柔らかい瞳だった。





09.言って欲しかった
(おいしいお豆腐はいかがの段)

手伝ってくれたきり丸達に礼を告げて、アルバイト代の一割と今度またアルバイトを手伝う約束を取り付けて。
手に入った親睦会の費用を手にウキウキと長屋へ戻ると、勘右衛門が飛びついてきた。

「ちょっとへーすけっ!」
「うわっ、どうしたのさ」

思わず避けるとそのままべちゃりと廊下に転ぶ。
その状態でがしりと足を掴まれるのは、分かっていたので驚かないが地味に怖い。

「親睦会の費用……」
「え? あ、え、なんでお前が知ってるんだ」
「潮江先輩に愚痴られた……!」
「えっ」

それで疲れているのか。
直談判しに行ったからなあ。学級委員長だから勘右衛門が注意されてしまったらしい。申し訳ないことをした。

「すまなかったな。委員会のことだからお前に言うとは思わなくて」
「ちーがーうっ!」
しゃがんで肩に手を置くと、がばりと顔を上げられた。だから怖いってば。

「費用で困るならおれに言えよ! おれの顧問学園長先生だよ!?」
「は?」
「潮江先輩にもそれくらいの費用も出せないほどどこの委員会もかつかつで苦労してんだなんとかしろって言われたんだよ!」
「……はあ、」

親睦会とか不要って言ってませんでしたっけ先輩ってば。
ていうか確かにどこの委員会も資金人手不足だと思うけど、それを後輩に愚痴りますか先輩ってば。
あと勘右衛門もしれっとボンボンみたいな発言するな。
金に困ったら学園長先生みたいな言い方もやめなさい。あれでもプロ忍に命狙われたりするんだぞ。

言いたいことは山ほどあったがなんだかどっと疲れたので、足に捕まる勘右衛門を引きずったまま自室に戻った。
ちなみに、親睦会はきちんと自分達で稼いだお金で開きました。





10.貴方へのレクイエム
(とある未来の話)

白い百合を一輪、花瓶に差した。
また一人旅立った教え子の顔を思い浮かべる。

(……どうせ向こうでも仲良くしとるんだろうが。全く、馬鹿者共め)

次に会ったら真っ先に拳骨を落としてやろう。
恩師を泣かせた罪は重いのだから。








――
五いの関係性を考えていたら思ったより長くなったの巻。
特に7、8ね。そこはかとなく10とも繋がってます。
あと2はあれです、先輩達激おこ☆のシーン。竹谷尾浜はいたけど久々知はいなかったため。
勘右衛門さんは分からない人だと度々思っていたのですが、五いの水遁の術の段でますます分からなくなっていきまして。ただ忍ミュのレポやらなんやら見てますと、どうも仄暗いイメージが付きまとうなーと思って。
昔は三郎と兵助が闇に呑まれかけたら八左ヱ門雷蔵勘右衛門が引っ張るのかなーって思ってたのですが、五いは逆っぽいなーと最近思い始めました。やっぱり学級は根本が似ているのかもしれぬ。

以下だらだらと自己解釈のような妄想。
なんとなく五いのイメージが掴めたようなそうでないような。
定着しつつある、兵助の勘右衛門大好きなところとか、勘右衛門のよく分からない感じとかはなんとなく解明できたような気がする。
なんというか、兵助は勘右衛門を甘やかしてますよね。雷蔵の三郎に対するアレみたいな。ただ雷蔵三郎は信頼もきちんとあって、線引きとかもできてて、お互いがお互いに甘えられるところは甘えられてる感じ。そのへん五いはまだできてない。
勘右衛門は意外と自分のことには不器用かもしれない。ポーズとして甘えたり甘やかすことはできるけど、素とか本音を出すのは怖いのかもとか思ったり。なんか理由とか無いと甘えられないみたいな。貸し借りとか。そういう解釈をしてしまうと、勘右衛門の兵助に対する無茶ぶりはどこまで甘えていいか試す子供みたいに見えてしまうよね。
兵助は逆に、身内には常に本音だし素な気がする。八左ヱ門もそのタイプなイメージなので、この二人はよく喧嘩する、みたいな。その分お互いのこと理解してそうな二人でもある。
で、兵助は勘右衛門のそういうところをよく分かってそうだなーという。
なんかそんなイメージになりました五い。
兵助は同輩の誰より先に、死を身近に感じた人だと思うんですよね。矢鴨ね。だから学園とか友人の尊さを理解してて、終わりがあることを分かって大切にしてるような気がしてます。
とかだらだら書いて、保護者な勘右衛門さんも好きなんですけどね。お勘。


あ、10で百合の花にしたのは、あれです。
「百年目に合う」っていう、夢十夜だっけ。のやつから。
やっぱり夏目漱石大先生は素晴らしいですね。


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