委員長改選編、裏の裏の話

*「委員長改選編、委員長たちの話」の続き。前の読んだ方が分かりやすいかもしれない
*原作の方の委員長改選編(51巻・52巻)がベースなので原作読んでないと分かりにくいかも





学園長先生の突然の思いつきにより、委員会が全員バラバラになってしまった六年生の各委員長たち。
雷蔵の迷い癖を直すための騒動を無事に終え、ようやく自分の委員会に戻れると思っていた、のだが――?
(※あらすじ)



「あああもう全く分からん! 何故戻れないんだー!」
「……落ち着け」
「委員会の仕事ちゃんとこなしてます?」
「マニュアル通りにだが、なんとか」
「とはいえ、先生方が補助してくださっていてもやりにくくてかなわん」
「正直委員会の仕事で忙しくて、目的考える暇ないよね…」

あまりにも委員長たちのストレスが溜まっているせいか、月に一度の委員長会議は週に一度になり、会議内容はもっぱら委員会の愚痴になっていた。
そんな先輩たちに文句を言えるはずもなく、毎回律儀に会議室の手筈を整えるこの場で唯一の五年生はひたすら聞き役に徹している。火薬委員会はなんの面白味もないくらい通常通りだ。余計な口を挟むと確実に集中砲火になる。

「新学期まで変わらないのかな。そろそろ走り回りたいんだが」
「図書委員を鍛錬に付き合わせるのはやめろよ。ただでさえ図書室ぐちゃぐちゃになってるんだから」
「さすがにそれはせんぞ。下級生が多いから大変そうだし」
「そこじゃねーよ」

ツッコんだり呆れたりしつつ、何度議論しても意味のない“何故戻れないのか”という議題を名目に会議を開く。
もはやただの愚痴会になっている会議で、しかし今回は珍しく動きがあった。

「そういえば久々知、八左ヱ門はいつもああなのか?」
「と言いますと?」

きょとんとする久々知に、仙蔵が考えながら口を開く。
自然と全員が二人の会話を聞く態勢に入った。

「やたら謙遜するというか…委員長代理としての自信がない、というか」
「え?」
「そういえば、六年生が何か言ってなかったか聞かれたって乱太郎から聞いたことあるよ? 委員長代理は委員会を束ねなきゃいけないけど、六年生にも気を遣うから大変だって」
「そりゃあまあ、そうだろうな」

伊作の言葉に頷く文次郎を見つつ、今度は久々知が考え込む。

「そりゃ、…私も八左ヱ門もまとめ役として不甲斐ないと思うことはありますよ。先輩方と比べてまだまだだな、先輩方はやっぱり凄いなってお互いに愚痴とか相談とか言い合いますし……」

愚痴や相談内容を思い出しながら、考え考え久々知の言葉は続く。
さらっと尊敬発言をされて六年生は内心で悶えているのだが、それにはさっぱり無関心でスルーするのが久々知兵助である。

「委員長代理としての自負は私も八左ヱ門もあるつもりなんですけどね……あ、でも」
「な、なんだ?」
「立花先輩がいらっしゃるから余計に自分の不甲斐なさが目に付いて自信を無くした、という可能性はありますね。絶対卒業までに倒してやろうと思ってる私達とは違って、八左ヱ門は素直に先輩方には勝てないと思ってるところがありますから」
「最後の言葉は聞き捨てならんが、なるほどな」

上下の対抗意識はどの学年にもあるもの。その上実は一番負けず嫌いが多いのが五年生なので深くは突っ込まない。対抗されても自分たちが負ける可能性なぞ叩き潰すので。

さて、ここで久々知が敢えて言わなかったことが二つある。
一つは度重なる六年生の無茶振りのせいで八左ヱ門が若干六年生を恐れている節があること。仙蔵に対してただ委縮しているだけの可能性。
そしてもう一つは、八左ヱ門がわざと仙蔵の前で“出来ない元委員長代理”として振舞っている可能性。五年生は総じて騙したり誤魔化したりすることがうまいので、六年生か教師たちに“生物委員会は六年生の委員長が必要だ”と思わせて委員長を獲得しようと考えている、ということは十二分に考えられる。

言わなかったのは同級生かつ同じ委員長代理としてのよしみ――も無いことは無いが、八左ヱ門に委員長代理としての自信をつけるためだ。委員長が必要だと考えること自体、委員長代理の自信が無いことの表れでもある。
裏にあるかもしれない感情を黙っておくくらい、後輩の可愛い嘘として見逃してほしい。あくまで可能性の話だし。

「久々知、お前また何か隠してないか?」
「え、何をですか?」
「……何かあるなら先に話しておけよ」
「分かってますよ」

委員長たちの疑惑の目を受け流す。
五年生、そして火薬委員会委員長代理たるもの、これくらい出来なければ。

納得はしていないようだが、六年生は八左ヱ門にどうやって委員長代理としての自信をつけさせられるかという会議に入っていく。ほんの些細な可能性でも、可能性があるなら本質を引きずり出す。
切り替えの早さといい、粘り強さといい、さすが六年生だなあと考えながら、久々知は口を噤んで再び議論の聞き役に徹し始めた。





とりあえず仙蔵を筆頭にさりげなく褒めよう! という割と単純な結論が出て、お開きとなり。
その後何度か会議が開かれたが、結局収穫も変化もないまま、事態は新学期に突入した。

他の長期休暇ならともかく、春休みはほとんどの生徒が実家に戻る。
教師陣も宿直はありつつ静かな学園生活を過ごしたり、慰安旅行に行ったり。

その、ほんの僅かの時間で、忍術学園の看板が誰かに盗まれてしまったらしい。

「兵助」

全校生徒が登校してきててんやわんやとなっている学園の最中、自分を呼ぶ声に振り返る。
声で分かってはいたが、にこにこと穏やかに微笑む学園の長。通称狸爺……というのは置いておき、今この状況で自分に話しかけてくるということは何か重要なことなのだろう。思わず身を引き締める。学園長は食えない笑みを浮かべたままだ。

「何かご用ですか?」
「あとで豆腐プリンを持ってきてくれんかのう」
「…分かりました。庵でよろしいですか?」
「うむ。それと、各委員会に通達しておいて欲しいのじゃが……」

内容は"看板事件を忍たまだけで解決すれば委員長は元に戻れる"というものだった。
どうやらようやく戻れるらしい。微かに息をついた久々知に、学園長はほっほと笑った。

「兵助は、看板がどこにあるか分かるか?」
「さて、春休み中に起こったことですから」

しれっと返しながら、久々知は内心で溜息をついた。
豆腐プリンは符牒だ。"火薬を隠せ"という。他にも先生方との符牒はいくつかあるのだが、今回は通常通りの場所に隠せばいいらしい。

つまりまた、学園に侵入者が訪れる。

「ただ、いくら隙をついたと言っても先生方が気づかないわけがない。小松田さんもです。とすると、先生方も小松田さんも知っていて放置している……もしくは、加担している。それなら看板を外に出すのは考えられない……」

にこにこと聞く学園長に、久々知ははたと止まる。
仙蔵達の話を思い出した。もし、あれが目的ならば。

「……生物委員会……八左ヱ門が気付く場所?」

学園長が笑みを深めた。
どうやら当たりのようだ。前回は一年は組と雷蔵、今回は八左ヱ門。前回はヒントがあったから分かったが、今回は仙蔵達が気付いたから辿り着いた答えだ。やっぱり先輩達はすごい。

「では、よろしく頼む」
「はい」

踵を返す学園長に一礼して、久々知は火薬委員を収集するため駆け出した。今得た情報を委員長達にも伝えなければならない。





火薬委員に指示を出して保健室へ行くと、誰かが豆乳を大量に仕入れたと騒ぎになっていた。勿論久々知ではないし、久々知の言い分を文次郎も伊作も信じてくれたようだった。

『うちに指示が出ました。それから、看板は八左ヱ門が分かる場所のようで』

学園長からの言伝を伝えつつ、先程得た情報を矢羽音で飛ばす。文次郎と伊作は一切動じることなく端的に了承の返事をかえした。
さすが先輩だ。久々知は誰も気付かない程度に口角を上げて、伊助と共に保健室を出た。
さて、さっさと他の委員会に伝えて火薬を隠さなければ。
八左ヱ門の件は、先輩達に任せておけば大丈夫だろうから。





かくして、二転三転はしたものの無事に忍術学園の看板は戻ってきた。委員長達も元の通り、八左ヱ門などは少しがっかりしていたが、概ねの生徒が喜んでいたので良しとしよう。

「お疲れ、久々知」
「お疲れさん」
「お疲れ様です」

八左ヱ門が委員長代理に復帰したため会議で話すわけにもいかず、全てが終わってから久々知は六年生に呼び出されていた。

「八左ヱ門の様子はどうだ?」
「ちょっと落ち込んでましたが、もう吹っ切れてましたよ」
「それは何より」

表情を変えることなく雰囲気を和らげる仙蔵に、文次郎達がにやにやと笑う。八左ヱ門に委員会の代表者としての自信をつけさせるにあたり、一番面倒を見たのは生物委員会委員長に所属した仙蔵だ。八左ヱ門に伝えた言葉はどれも本心だが、頼ってくる後輩をあえて突き放すのはなかなかしんどい。面倒見の良い仙蔵は尚更だ。

「まあ、八左ヱ門はこれからだよ」
「だな。それより久々知、五年は今回のこと、どこまで勘づいてる?」

労わるように仙蔵の肩をぽんと叩く伊作に同意して、留三郎が尋ねる。久々知は友人達のことを思い出して少し笑った。

「私が先輩方に呼び出されたことで概ね理解したみたいですよ。とはいえ今回は私に対して負い目があるようで、深くは聞かれませんでしたけど」
「負い目?」
「……学級委員長委員会は枠組みが違うし、八左ヱ門も委員になったからな……」
「ああ、委員長会議の準備も久々知一人にさせちゃってたしねえ」

長次と伊作の言葉に久々知が苦笑しつつ頷く。

「別に気にしなくてもいいんですけどね。先輩方の無茶振りなんて今更ですし」
「お前の図太さを知りながら申し訳ないと感じる素敵な友人達に感謝するんだな」
「してますとも」
「こないだ豆腐地獄って逃げてたけどな……」

マイペース豆腐小僧はいつでも変わらない。やれやれと呆れる六年生の視線の先で、久々知はおやつの高野豆腐をさくりと口にした。





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お久しぶりです!
二日連続の五年回にやられて51巻52巻を引っ張り出しました。やっぱ幕間妄想は楽しい。途中まで書いてたものに加筆したので文章が違うなと感じられてもご容赦を。

ていうか五年回にやられたのに特に誰とも絡んでねえな?
リハビリってことで勘弁してください。読み返して気に入らなかったら完全版書くと思われます。


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