鉢くく忍務






兵助との忍務ほど楽なものはない、と言ったら聞いていた人達にそれはもう怒られた。
別に侮っているとか、兵助に負担をかけているとか、そういうことではなかったのだが。むしろ兵助は、私との忍務の時ばかり普段やらないようなことをやりたがる。存外遊び心が強いのだ、あの優等生は。

「鉢屋、久々知にあんまり迷惑かけるなよ」
「久々知は真面目だから大丈夫だろうけどね」
「だからこそだろ、真面目な奴は一度切れると怖いんだから」
「なにそれ経験談?」

あまり関わりのない六年生からそんな言葉をもらって、適当に返して別れる。知らないだけで、単純に心配してくれているので別に反発心はわかない。遠目に立花先輩と食満先輩の憐れみと呆れの視線を受けたが無視した。この人達には反発心がわく。

「今日からだっけ? 気をつけてね」
「ああ、ありがとう」

雷蔵の穏やかな笑顔に見送られて学園を発つ。

兵助は既に目的の城に潜伏している。俺は兵助の手引きで城に潜入し、密書を奪って来るのが忍務の内容だ。
得手でいくなら逆の方が良かったが、兵助がそうしたいというのだから仕方がない。変装の腕を磨きたいらしい。私との忍務をあいつは実習か何かだと思っている節がある。

「山」
「川」
「西」
「……青色。右」
「藍色!」
「いきなりふざけるなよ、なんだその暗号」
「学園式暗号。普通の暗号より高度だろ」

集合した瞬間これだ。思わず名前を言ってしまいそうになって制服の色で答えたが、ニコニコしているところを見ると誰だか分かれば答えはなんでも良かったのだろう。
確かに学園の者しかわからないから便利ではあるが。

「もう準備できてるよ。すぐ行ける?」
「当然。君こそ、ヘマしてないだろうな?」
「誰に言ってる」

立ち上がって笑みを交わす。
互いの実力は十二分に知っている。作戦は最低限のことだけ。綿密なものは、私達の間には不要だ。

「それじゃ、行こうか」

遊びの時間が始まった。





どおん!
轟音が鳴り響き、ざわめいていた喧騒の中に悲鳴と怒声が混ざり始める。
そんな人達を嘲笑うかのように、轟音は何度も鳴り響く。あいつどれだけ爆発させる気だ。

屋根裏を伝って、城主の部屋へ。密書の場所は城主の部屋の奥にある桐箪笥の上から三段目。
さて、城主が慌てて出て行ってくれれば有難いんだが。

「何事じゃ!」
「何者かが侵入した模様です。女中は皆避難させました、殿も急いで!」
「む、わ、分かった、しばし待て!」
「待つ時間などありませぬ! こうしている間にも敵はもうすぐそこまで来ておるのですよ!」
「だ、だがな……」
「命より大切なものなどないでしょう! ささ、早く!」
「む、わ、わかった……」

殿めちゃくちゃ押しに弱いな。
というか一般の足軽が殿にあそこまで言えるとは、戦好きとはいえ仲間意識は強い城なのかもしれない。まあ足軽というか、あれは兵助だが。
変装の腕試しはまだ続いているようだ。さっきまで爆発させて回っていたというのに、本当に自由なやつだな。

さっさと密書を取って、お暇させていただくか。



無事に密書を取って、合図の閃光弾を投げる。
光って敵の視界を奪っているうちに姿を隠し、無事に城を抜けた。兵助もじきに戻ってくるだろう。あとは集合場所で待機するだけだ。

「花!」
「用具。練り物」
「……あ、うちか。じゃあ田楽豆腐!」
「うちか君んとこか藍色」
「委員会縛りじゃなかったのか」
「じゃあうち」

田楽豆腐なんて君の代名詞みたいなものだろう。一応学園長先生の好物でもあるが、火薬委員会か五年生と言われても納得できる符牒だ。……いや納得していいのだろうか。俺らの学年田楽豆腐で通用するって。……今更か。

「怪我は?」
「殿を連れ出してくれた足軽がいたから、見事に誰にも遭遇することなく帰ってきたぞ。君は?」
「いろんな人に変装したけど一度も気付かれなかったよ。新しい火薬も試せたし、薬の効能も学べたし、良い忍務だった」
「そりゃ良かったね」

衣をひっくり返して旅人を装えば、顔を見られていない私達はいくらでも誤魔化せる。軽く伸びをして、のんびりと並んで歩いた。
喧騒は、もう聞こえてこない。

忍務完了。





「はあ、やっぱり三郎との忍務は楽しいですね」
「好き勝手できたようで何よりだよ」
「そりゃもう」

報告帰りらしい久々知に会ったので話を聞く。心底満足そうな表情は、豆腐がうまく作れた時に匹敵するかもしれない。立花は呆れたように笑った。

「相変わらずだな優等生。私の同輩達は、鉢屋がお前に振り回されていると思っているよ」

久々知は立花達と自分の同輩にしか見せない悪い顔で笑った。

「そりゃあ、普段の行いの差でしょうね」







ーー
鉢くく!?鉢くくです。
前提として付き合ってる設定なんですよね!わかるか!

一応ね、五年生と六年六人衆の忍務や実習ではやりたいことをやる久々知がいて、
その上で三郎と二人の忍務の時はそれ以上に全力で三郎に甘えて好き勝手する兵助と、
それを理解している上で普通に許容する余裕のある三郎

って感じの話でした
他のメンツがいると好き勝手しつつもよく見てフォローに回ったりサポートしたりするけど、三郎のことは実力は申し分ない+甘えが出て三郎を気にせず自由に動き回れるっていう話
だから仙蔵達が思ってる以上に忍務中の久々知は自由人です
っていう

鉢くく模索中です
私には甘い鉢くくは書けそうにないな!(そもそも甘いのが書けない)

練習しましょう。

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