潮江の久々知呼称考察の一

*とても個人的な解釈の一つ(ほぼ妄想)





会計委員会の部屋の前。
各委員会が勢揃いし、それぞれギラギラした目で会計委員会を睨み付けている。
予算会議(合戦)である。

「だからー、一人増えたのでそれに伴って予算も増えるんです。火薬の管理ができないと大変なことになるのは会計委員会もよくお分かりでしょう」

現在火薬委員会のターンである。
正座しつつも堂々としている久々知に、後輩達も一歩も引かないぞという気構え。編入生の羽丹羽もすっかり火薬委員の顔だ。潮江は一つ溜め息を吐いた。

「あのな、ただでさえお前のところは硝石の購入費管理費でバカ高い予算ふんだくってんだろ。どこもギリギリなんだよ」
「さも火薬委員会が贅沢してるみたいに言わないでください。他の委員会と違って自作できるものじゃないんだから仕方ないでしょう。こっちだって炭や硫黄なんかを安くしていただいたり、研究レポートを火薬の研究者に渡して代わりに火薬をわけていただいたり、いろいろやってるんですよ。というか火薬が無くなったら無くなったで文句言うくせに予算多いとか言わないでください」
「俺は言ってねえだろ」

久々知先輩すげー……と後輩から声が上がる。淡々と理詰めで先輩に食ってかかる姿が珍しいようだ。普段温厚でニコニコしているタイプなので、余計に無表情で冷静な姿が見慣れないらしい。
だが少なくとも上級生は知っている。久々知は元々ああだった。静かにきっちり反論の隙を与えることなく、滔々と火薬の必要性を説く。そして一分の隙も無い予算案で会計委員会から予算をもぎ取る。タカ丸が来るまで、去年兼任委員長だった先輩の代わりに四年生にして堂々と他の委員長達に引けを取らなかった。
前回前々回の予算会議が異常だったのだ。前回前々回も他の委員会に邪魔されただけで、甘酒というミスがあったとしても零にはならなかっただろうが。

「これでもギリギリに削った額なんですよ。でも必要なものは削れないじゃないですか」
「それは分かってる、が、出せる金にも限度があるんだよ」
「それも承知していますよ。しかしこちらも火薬の管理に必要なものしか計上していません。削れるものは削っています」
「こっちもそうだ。その上火薬委員会には他よりも多めに捻出している。どうにか限度額以内に絞れ」
「無理です」
「ちょっとは考えて言えよ!」

無茶ということは双方分かっているのだ。だが無理なものは無理である。学園長に言って捻出してもらうという手もあるが、そういう裏技がぽんぽん使えるわけもない。
真顔で淡々と姿勢を崩さない久々知に、潮江は大きく溜息を吐いた。

「……あのなあ兵助、」

ぴしりと時が止まった。

「「えっ」」






六年生から笑い声が上がる。言われた方はあー……と額に手をあて、言った方は意味もなく片手で口を覆った。

潮江は普段、久々知のことを苗字で呼んでいる。そもそも久々知が名前で呼ばれることの方があまりないのだが、少なくとも潮江は普段、久々知のことは苗字で呼ぶ。
だが下級生の頃は違った。
久々知はなんというか変わった子どもで、今の一年生と二年生の間にある対抗心や反発心みたいなものを持っていなかった。先輩のことは素直に尊敬したし、頼った。現六年生の六人とは良き先輩後輩の関係であったと誰もが言うだろう。六人とも、素直にキラキラした瞳を向けてくる後輩のことは可愛がっていた。というか現五年生はみんな素直で可愛かった。
しかし久々知は現在も続行している通りとても優秀な生徒で、責任を負う立場になることも早く。次第に潮江は呼び方を名前から苗字に変えた。だが後輩であることに変わりは無いので、本人か六年生がいるときだけ名前で呼んでいる。
そしてつい間違えて、委員会所属の生徒達の居る前で名前を呼んでしまった、というわけだ。

「ええ〜。聞いてないよ兵助そんな面白い話!」
「そんな面白くないだろ……」
「いやあ、いつ間違えるかなあとは思ってたけど」
「意外と呼ぶ時なかったからなあ」
「しかしこんな後輩いっぱいいる時に間違えるとは」
「さすが文次郎」
「さすがの意味が分からん!」

いたたまれなくなった潮江と久々知がそれぞれの後輩を使って超特急で全委員会の予算を調整し、無理矢理予算会議を終わらせ。
興味津々な顔で聞いてくる後輩達に、六年生が断るはずもなく。なんとなくみんなで集まり、潮江と久々知の関係性を話しているのだが。
同級生達にそれぞれからかわれ、双方とてもいたたまれない。

「ちょっと羨ましいような気もしますけど、先輩方の方が付き合い長いですしね」
「あーいや、認めて可愛がってるのは確実に委員会の後輩達だから。右腕は田村だけだろうし。ね、潮江先輩」
「え、まあ……そりゃ……」
「潮江先輩……!」
「久々知くんの右腕は三郎次くんだもんね〜」
「そりゃもちろん。タカ丸さんも可愛い後輩だけどね」
「久々知先輩……!」
「久々知くん……!」

後輩たらし。
その場にいた六年生と五年生の心が一致した。








――
いや本気でオチが思いつかず。適当にもほどがあるね。

潮江先輩が兵助って呼ぶとき、原作では六年の前でだけだし、アニメでは二人きりのときだけなので、ちょっと妄想しまして
んで後輩とかの前で名前呼んでカチーンと空気が凍るさまを書きたかった
あと土井先生も火薬委員会でいるときだけ久々知のこと兵助って呼ぶ……とかいいんでない?って思ってるんだけど、原作を読み直さないと書けない

あと全然関係ない話なんだけど、久々知→タカ丸さんへの口調は敬語とタメ口混ざった感じにしたいです。原作であんま言葉を交わさないんだけど、敬語使った方が少ないイメージがあるので



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