兵助と学級コンビと



「いや兵助いるなら護衛いらないじゃん!?」
「ほら、おれ、荷物持ちだし。両手塞がったら戦えないしさ」
「君がそんな理由で戦えないわけないだろうが」

食堂で珍しく五年生の三人が喧嘩をしていた。喧嘩……というか、飄々としている兵助に勘右衛門と三郎が喚いている、というか。
五年生がうるさいのは今に始まったことではないが、普段かき回す側の学級委員長コンビがぎゃあぎゃあ言う姿など滅多にない。
何事かと耳だけ意識をそちらへやると。

「つかそもそもなんで兵助まで行くんだよ?」
「そうそう。関わりないだろ君達」
「んー。強いて言うなら豆腐仲間みたいな……」
「「豆腐仲間ぁ?」」

一体なんの話をしているのかさっぱり分からないが、どうやら誰かと兵助がどこかに行くのに学級二人が護衛をしなければならないようだ。
で、その関係性が豆腐仲間だと。……ううん、さっぱり意味が分からないな。

「あ、信じてないな? おれの豆腐評判いいんだからな」
「いやそれは知ってるよ。どこぞの忍者の人とか、どこぞの豆腐屋さんとかにスカウトされたんでしょ。お前から聞いたもん」
「ちょっと待ておれ聞いてない。スカウトってなに?」
「なんか美味しい豆腐が作れるって有名になってるらしくてさあこの子ったら。豆腐作ってくれってどこぞの忍者の人に頼まれたり、見知らぬ忍者の人に豆腐あげたら慕われたり、豆腐屋さんには養子になってくれって言われたんだって」
「はあ? ……兵助さん豆腐屋になるわけ?」
「なりませんけど」

思わずずっこけそうになったのは私だけでなく、傍で聞き耳を立てていたそこらへんのアホ共もだ。文次郎や小平太なぞ飯を吹き出しかけた。
しかし優秀さではなく豆腐の腕が有名になっているとはなんともまあ、兵助らしいような。優秀さの方が有名じゃなくて良いのだろうか。……良いのだろうな。

「つか見知らぬ忍者に豆腐作ってくれって頼まれるってなに? どういうこと?」
「元気付けにはいいんだけどね、兵助の豆腐。で、豆腐仲間ってなによ」
「だからそのままだよ。おれが作った豆腐が気に入られたの。で、一緒に美味しいお豆腐屋さん行きましょうかってことになったの。分かった?」
「分かりたくないー!」
「なんでそんな護衛をおれらがしなくちゃいけないんだ……!」

うがーと机に突っ伏す学級二人に、兵助はやれやれという風に苦笑した。いや苦笑するところかここ。私はどちらかというと学級二人の気持ちの方が理解できるぞ。

「護衛はまあ仕方ないだろ。ほら、美味しい豆腐でお前らが好きな豆腐団子とおぼろあんかけ作ってやるから」
「…………豆乳ボーロも追加で」
「…………てりーぬがいい」
「分かった分かった、全部作るから」

ああ五年、がっちり兵助に胃袋を捕まれているのだなあ……と少し遠い目になる。分かるが。兵助の料理は美味いが。そしてちょっとその料理全部食べてみたいが。
小平太が興味を引かれた顔をしたが、さすがに長次に止められていた。まあ次の休みの時にでも頼めば良い。長期休みに兵助がいると美味しい料理が食べられるものだから、兵助に料理を頼む者は多いのだ。かくいう私もその一人だが。

「ああーーーーうっっし!! よし! やるぞ!」
「うん。兵助の豆腐料理が待っている……!」
「そんなに気合い入れないとダメ?」

頬をパチンと叩いて、拳を握って、立ち上がる二人に苦笑しながら、兵助も立ち上がった。
結局誰と行くのか分からずじまいだ。護衛ということは、それなりの地位の人なのだろうが。

「つーか行くの明日なんだけど……」

颯爽と食堂を出て行く勘右衛門と三郎に、兵助は冷静にぼそりと呟いてその後を追った。
なんでこんな真っ昼間から完成度の低いコントを見せつけられた気分にならなければいけないのか。

そうして結局真相は分からぬまま、もやもやとした感情だけを五年生は食堂に残していったのだった。





――
六年生が学園長先生と食堂のおばちゃんだと知る日は来るのだろうか……
護衛最中も書きたかったんですが、まとまりなかったので。また書きたい

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