兵助と雷蔵と勘右衛門と甘味






「こっちのはどう?」
「うーん、なんだろう、これはなんか足りない気がするんだよな……」
「足りないかあ……うーん、こっちは?」
「これは逆にいろいろ入れすぎな感じ」
「そっかあ……難しいね」


食堂の前を通ると、聞きなれた友人二人の声が聞こえてきて足を止める。
片方はよく趣味でここにいるのだが、もう一人がここにいるのは珍しい。しかも、どうやら料理を作っているのは珍しい方だ。
今更遠慮なんてものはなく、二人が何をしているのか気になったおれは食堂に入った。


「へーすけ、らーいぞっ、何してんの?」
「あ、勘右衛門」
「勘右衛門、ちょーど良かった! ちょっとこれ食べてみてくれない?」


見せられたのはテーブルの上いっぱいに並べられた大量の甘味。
みたらし団子に餡団子、あんころもちに桜餅、草餅、おはぎ、三食団子。香りはいいけど、全部どこかしら歪な形だ。
この感じからして、きっと雷蔵が作ったのだろう。でもなんでまた。


「どしたのこれ?」
「雷蔵の補習」
「……どゆこと?」


どうやら女装の実習で補習になってしまったらしい。
んでその内容が『甘味を作って女として男に渡す』というもの。
料理はそれなりにできるが甘味となると中在家先輩の手伝いくらいしかしたことがない雷蔵は、休日はほとんど食堂か豆腐小屋にこもっている兵助に指南を頼んだというわけだ。


「へーええ、雷蔵だけが補習なの? 珍し」
「寝坊したんだってさ」
「いやあ、前の日に新刊入っちゃってついつい……」
「あー」


集中すると周りが見えなくなるのは雷蔵の悪い癖だ。大方のめりこみすぎて徹夜したんだろう。
ただでさえこの歳で女装がキツいのに、隈なんてもってのほか。その上寝坊したということは恐らく身なりもきちんと整えられなかったのだろう。雷蔵は大雑把なところがあるから。


「で、甘味作りの練習中ってわけか」
「そ。暇なら勘右衛門も付き合ってよ。食べる人がいてくれた方がはかどると思うし」
「いいよー暇だし」
「わーありがとう二人とも……!」


ほわりと笑みを浮かべる雷蔵に笑い返す。
甘い物は好きだからむしろラッキーだ。






――
ねえ知ってる?
これ書いたの去年の夏頃なんだってー。
もはや何を書きたかったのかすら覚えてない……。
というわけでお蔵出し。



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