五年い組の夏休み






「夏といえば〜?」
「激辛麻婆豆腐!」
「お祭り! です!!」





ムスッとする兵助をなんとか宥めて、下町へかき氷を食べに行く。学園はとっくに夏休みに入って、ろ組の連中や六年生もお盆くらいはと数日だけ実家へ帰っている。おれと兵助は諸事情で今回は帰らないため、いつもより静かな学園を謳歌しているのだ。
たった二人でも、同室と一緒なら寂しさはあまり感じない。部屋に風鈴を吊り下げて、全力で水を掛け合ってついでに洗濯をして。時々宿直の先生が「内緒な」とか言いながら水羊羹や西瓜を持ってきてくれて、こっそり頂いて。
正直めちゃくちゃ楽しい。二人っきりの夏休み万歳って感じ。正確に言えば二人だけではないんだけど、あんまり関わりがないので気にしない。
そんな日々の中で、そういえば祭があるなあ、と思ったのだ。

「もーいつまで拗ねてんの。いいじゃない、麻婆豆腐はろ組が帰ってきてからで」
「それはいいけど勘右衛門が“この季節に麻婆豆腐はないわ”という顔をしたことに腹が立っている」
「そんな顔してないよ! このあっついのに激辛食うの!? さすが兵助ぶっとんでる! って思っただけだよ!」
「結局ひどいよ勘右衛門……。ていうか、お前だって寒い日に冷たいもの食べたいってよく言ってるじゃないか」
「ああ……いややっぱ暑い日に辛いもの食うのはわかんねーよ」
「おれだって勘右衛門が寒い日に冷たいもの食べる気持ちはわかんないよ」

なんてことを喋りつつ、おれ達は町へ向かう。
夏の夕暮れはどこか寂しく感じる。他の季節よりも日が長いからだろうか。ヒグラシの声とか、どこかで聞こえる風鈴の音とか、ちょっと冷たい風とか、どこか懐かしい。
遠くで聞こえる太鼓の音が、余計にいつかの夏を思い出させるのかもしれない。

「祭の屋台の食べ物ってさあ、普段売ってたら買わないよね。そんなに美味しくないし」
「お前はムードを壊すようなことをさらっと言うね〜」
兵助らしい物言いにちょっと笑う。
「ああいうのは、みんなで花火見たり盆踊りしたりしてテンション最高潮の中で食べるから美味しく感じるんだよ」
「お前人のこと言えないからな」
吹き出すように兵助が笑う。どうやら機嫌は直ったみたいだ。
そうしているうちに、祭の屋台が見えてきた。



「わたあめ食べる!」
「勘右衛門金魚すくいやるおれ」
「次焼きそばいこー!」
「あっ、ヨーヨー釣り」
「かき氷兵助何がいい?」
「いちご」
「おれみぞれにしよ〜」
「勘右衛門お面買おうお面」
「お前そんなお面好きだったっけ」
「射的勝負しよう」
「よっしゃ勝つぞ!」
「はぁあ! 田楽豆腐……!」
「あ〜良かったねえ……買いな買いな」


一緒に美味しいものを食べて、一緒に楽しいことをして、一緒に花火を見て、一緒に盆踊りをして。
一緒に笑って。
また一つ思い出を作って、夏が過ぎる。


ろ組にこの話をしたら散々羨ましがられたので、これ見よがしにニヤニヤとハイタッチしながらとっておいた鈴カステラを渡してやった。





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