しちせき*竹くく




昼間誰かがどこからか持ってきた笹に、夜になるといつの間にか短冊がたくさんつけられていた。
色とりどりのそれを横目に眺めつつ、兵助はガラリと目的の扉を開ける。

「はちざえ……」

名前を呼ぶ声はそのまま溜息に変わる。
授業が終わって委員会で別れてから、夕飯にも風呂にも顔を出さない恋人を心配して来てみればこれだ。
部屋の主は委員会が終わって疲れたのか、腕まくりに頭巾を取ったまま机に突っ伏して眠っていた。

「おきろー」

小声で軽く肩を揺さぶってみる。
が、八左ヱ門は軽く唸ってまた寝息を立て始めた。余程疲れているのか、はたまた兵助の気配を無意識に感じているからか。後者だと嬉しいとは思う。
そんな思考にふっと苦笑していると、八左ヱ門の腕の下にある紙に気付く。
青い長方形の紙。後輩か三郎あたりに貰ったのだろう短冊。

「……」

まだ何も書かれていないそれを見つめて、兵助はニヤリと笑った。





んがっ、という自分のいびきで目が覚めた。
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。気付けば辺りはすっかり暗くなっていた。
ゆっくり起き上がると、誰かがかけてくれたらしい上着が肩から落ちる。
肩をバキバキと鳴らしながら首を巡らせる。人の気配は近くになかった。

「……あ」

視線を目の前に戻すと、委員会で後輩に貰った水色の短冊。
そういえば何を書こうか考えていたのだ。後輩のことか、友人達のことか、はたまた恋人のことか。考えていたら眠ってしまったのか。つくづくじっとしていることが苦手な性分らしい。
苦笑して短冊を手に取る。と。

「あれ?」

裏に何か書かれている。
くるりと裏返して、書かれた文字を読む。筆跡はもちろん自分のものではない。が、あまりにも見慣れた、綺麗な字。
文字を読み終えると、八左ヱ門は着替えることもなく急いで部屋を出ていった。





開け放たれた部屋に、ふわりと風が入り込む。
それは机に置かれた水色の短冊をひらりと飛ばした。

『一緒に星を見ませんか』

今夜は晴天。
はてさて、イタズラなお誘いの結果は……織姫と彦星だけが、知っている。








――
七夕でBLを書きたい! と思って。竹くくひっさびさ。BL詐欺はいつもの通りです諦めてください。
しっかし長い文章が書けなくなってるなー。ほんとは短編に置きたかったんだけど、あまりにも短いのでこっちに。

イベント好きな割に行動を起こさないので短冊も書いてないですが、皆さんは書きましたか?



あ、忘れてましたが昼間笹を持ってきたのは八左ヱ門という裏設定がありました。だから疲れて寝てます。五年生はそれを知ってました。





修正 19.07.10

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