五いとホットケーキ

*現パロ





カチャカチャ。
ぱさっ。
かしゃしゃしゃしゃ……


静かな朝のキッチンで、忙しなく響く物音。
淡々と淀みなく動く手つきに内心で感嘆の声をあげながら、勘右衛門はそわそわと身を乗り出す。ふわりと香る甘い匂いにわくわくと心が踊る。


「勘右衛門、座って待ってなって」
「いやあ、楽しみで楽しみで!」
「子供じゃないんだから……」


苦笑しながらも手は休めない。
兵助は粉類を混ぜていたボウルとは別のボウルに、こんこんと卵を割り入れていく。慣れたように片手でぽんぽんと入れていく様はさすがだ。勘右衛門も今度は感嘆を声に出す。


「もうプロじゃん兵助……!」
「片手で卵割っただけで?」


けらけらと楽しそうに笑うが、以前雷蔵がそれをやろうとして卵を握り潰していた。あれは力の加減が難しいのだ。八左ヱ門なんて両手で割っていてもたまに失敗している。兵助も握力は強いはずなのに、兵助が割る卵は全部綺麗に黄身の形を保っている。
やはり豆腐を扱うからだろうか、とは三郎の弁。

卵を入れたあとははちみつをいれて、かしゃかしゃとかき混ぜる。力任せなようで、ボウルの周りには何も飛び散っていない。慣れている。
卵とはちみつの混ざり合いを飽きることなく眺めていると、次第に白くなっていく。


「おぉ……!」


数分もかき混ぜれば、ツノが立つほどになめらかになった。
兵助はそこへ、最初に混ぜていた粉のボウルの中身を合わせる。そして今度はホイッパーではなくヘラでさっくりと混ぜていく。


「それは?」
「小麦粉と豆乳混ぜたやつ。これで生地ができるんだよ」
「へええ…おいしそう」
「生で食べたらおなか壊すよー」


じゅるりとよだれを垂らしそうになる勘右衛門を笑って往なして、兵助はフライパンに火を入れる。十分に温めてから、油をひく。


「焼くよー」
「待ってました!」


おたまですくってフライパンに流す。じゅうっといい音がして、勘右衛門が歓声を上げた。
子供のような反応に兵助も嬉しくなる。
朝一番にホットケーキが食べたい! と騒ぐ同室の男に、なんとか冷蔵庫にあるものとレシピを照らし合わせて作り始めたが、とりあえず注文通りのものが作れそうだ。
全く兵助の同級生達はみんな自由人でいけない。
そんな兵助が実は一番フリーダムだということは、本人だけが気づいていない。


「へへっ、あいつらに自慢してやるんだー」
「自慢になるかあ?」
「当たり前じゃん! あいつら兵助の料理好きだもん」


そう言われると悪い気はしない。
とはいっても兵助が料理をする時はこんな早朝か、みんなで徹夜で課題をする時の夜食くらいだけれど。普段は食堂があるので。

ぷつぷつと気泡が出てくる。そろそろか、とフライ返しを持つと、勘右衛門が目を輝かせた。
フライ返しを使って丁寧にホットケーキをひっくり返す。フライパンをくるっとするなんて芸当はさすがに兵助にはできない。食堂のおばちゃんならできるかもしれないが。
ひっくり返したホットケーキは、綺麗な焦げ色がついていた。うむ、理想的。


「うあーうまそう!!」
「もうちょっと待ってろよー」


目に見えてはしゃぐ勘右衛門に笑って、それから兵助は二枚、三枚とホットケーキを焼いて重ねていく。目の前で積み重なっていくホットケーキタワーに比例して、勘右衛門の目が輝いていくのが面白い。
五枚重ねて、最後にバターを乗せる。とろりとシロップをかけて、出来上がりだ。


「いっただっきまーす!」
「お残しは許しまへんでー」


まだ温かいホットケーキに、バターがじんわりと溶けていく。香ばしい匂いとシロップの甘い香りが絶妙だ。
ふわふわのほんのり甘い生地にシンプルなシロップとバター。これ以上ない贅沢。
兵助が煎れてくれた苦いブラックコーヒーが、これまたいい塩梅。まさに、苦みと甘みのハーモニー、というやつ。

これは、意外と甘いものが好きな三郎が悔しがりそうだ。
内心でにんまり笑って、勘右衛門はぱくりと口に入れた。








――
数か月以上メモ以外の文章を書いてないのでりはびりりはびり。
最初室町で書こうとして、いやホットケーキなくね!? じゃあ現パロにすっか、いや待てこれどういう設定だ! と書きながらやっていくという体たらくでした。もっとがんばりましょう。

また飯テロ書きてー! という波がきていて自分の過去のやつを読み返していたら、やたらと「〜に合う!」みたいな表現が出てきて笑いました。たぶん何かで読んで印象的な飯テロの表現だったんだろうな。
文章久々すぎてなんとも、読み返すのが怖いです。
でももう書いている途中で落ちたー! 保存してねー! 私の千文字返せ!! 的なことにはならないと思うととてもストレスフリー。




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