彼の笑顔に掻き消された*勘くく

(title by 確かに恋だった)





雪。白い雪。牡丹雪かな。
しんしんと、降っている。微かな音。雪の降る音。積もる音。きっと明日は一面真っ白だ。
静かに、静かに、降り積もる。
まるでおれの心みたいだ。
静かに、静かに、気づかないうちに積もっていく。気づいたときにはもう、無視もできない。大きく、黒くなっている。
白い、白い雪が、積もって。
積もって。
何もかも塗りつぶしてくれれば。

すぅ、と意識が浮上する。
さて、なんの夢を見ていたか。考える間もなく、睡魔が手を伸ばしてくる。掛布団をかぶって、冷えた頭を温める。ぴっちり閉めて、布団から冷えた空気を追い出した。この中だけはおれの城だ。たとえ空気でもおれの邪魔は許さん。
うとうとと睡魔とじゃれあいながら、ふいに昨日の夜のことを思い出す。
昨日の夜は間違いなく、今季一番の冷え込みだった。
布団も部屋も冷たくて寒くて、火鉢に火を入れたまま寝ようかと思ったくらいだ。結局布団に入ってから眠るまで、随分時間がかかった気がする。
だから、おれが、すいまにまけても、しかたない――……

「雪だー!」

遠くから聞こえた子供の声に、ああ、と思い出したことが。
(ああ、そうだ。雪が。)
雪が、降っていた。あれは夢だったのか、昨日の夜のことだったのか。どちらでも。
聞こえる子供の声が増えてきた。はしゃぐ声。子供だけじゃない。きっとあれは一つ上の先輩たち。保健委員長の悲鳴も。雪景色を彩るたくさんの声。
それなのに、この部屋はちっとも暖かくなりやしない。
寒い。布団を頭までかぶっても、冷気を追い出しても、寒くて仕方がない。
もういっそのこと、このまま雪山に突っ込んでみようか。
白い雪が全部、おれのことも、この気持ちも、全部。覆い隠してくれるかもしれない。
……覆い隠してくれよ。全部。すべて。何もかも。
(そんなことを、昨日も考えたような気がするな)
同じことばかり、ぐるぐる。ぐるぐると。どうしようもないな。

まったく、どうしようもない。

外から聞こえてくる声にそっと溜息をついた。余計にこの部屋の温度が下がった気がした。
まるでこの部屋だけ別の世界みたいだ。おれだけ、別の世界にいるみたいだ。
(馬鹿みたいだ。本当に。)
それでもこの布団から出られない。とっくにこの布団も冷たくなっているのに。
部屋も外も、布団の中も変わらない。冷たくて、寒い。
さむい。

「勘右衛門」

柔らかい声とともに、木戸がそっと開いた。
顔も制服も汚れたまま、兵助が部屋に入ってくる。布団から顔だけを出したおれを見て、呆れたように笑った。

「ただいま。休みだからってあんまり寝すぎるなよ」

頷いて、だけど布団からは出ない。兵助が苦笑する。
どこかへ行った睡魔がまた手招いてくる。今度はじゃれる間もなさそうだ。
ああ、その前に。閉じていた目を開いて兵助を見る。

「おかえり、兵助」






――
本当に昨日の夜は今季一の冷え込みだったのか、という話でした。

勘くくです。私の中では勘くくなので勘くくなんです。(暴論)
リハビリっていうか、ちょっとなんつーか、違う文章を書きたいなーと思いつつ書いてみたら、なんだかポエムになったよ……?みたいな。(?)
やっぱり短編上げるにはもうちょっとこっちでリハビる必要がありますかね。長い文章が書けない。困った。





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -