火薬と七夕





昔々の話。
見目麗しい織姫という機織りが、眉目秀麗の彦星という牽牛と恋に落ちた。
しかし二人は恋に溺れて仕事を怠けるようになり、とうとうそのせいで天の神様を怒らせることとなる。
二人は深く大きな天の川のあちらとこちらに引き裂かれ、会えるのは年に一度の夜にだけ許された。
それだけを楽しみに必死に働いた二人は、とうとうその夜を迎える。
しかし夜になると雨が降り、天の川はとても渡れる状態ではなくなってしまう。
悲しみに泣き濡れる二人。
その時、二人の前にカササギの群れが現れた。
カササギの群れは二人のために身体を使って橋を作り、ようやく二人はまた会えることができたのだった。


「だから七夕に降る雨は二人が再会した嬉し涙だといって、催涙雨と呼ぶんだとさ」
「へええ、さすが久々知くん!」
「まあ、カササギが出なくて雨が降ると会えなくて、悲しくて泣いてるっていう説もあるんだけど」
「おとぎ話なんてそんなものですよね」
「でもぼくは最初の方が好きです。嬉し涙なら、雨でも仕方ないなって思いますもんね」
「伊助は優しいな」


委員会の仕事が終わり、控室で宿題をやりながらそんな話をする。
今日は七夕で、一年は組では山田先生が笹をどこからか取ってきてくれて短冊を書いたのだとか。一年は組らしい。
ちなみに伊助は「虎若と団蔵の部屋が綺麗になりますように」と願い事を書いたそうだ。
は組の願い事は個性的なものが多いだろうな、と三郎次の言ったことに兵助とタカ丸も同意した。


「先輩方だったらどんなお願い事を書きますか?」
「願い事なんて気休めみたいなもんだろ? やる意味ないって」
「また三郎次くんはそんなこと言う。おれなら、『綺麗な髪を結えますように』かな」
「タカ丸さんらしいですね〜」


きゃっきゃと笑い合う伊助とタカ丸を、のん気だと言いながら三郎次が脱力する。
そんな三人を眺めて兵助は微かに笑った。


「ただ願うだけなら誰でもできる。願ったからにはきちんと努力もしないとな」
「はい! 虎若と団蔵の部屋はきちんと管理します!」
「うん、おれも髪の綺麗な人を探す努力は怠らないよ!」
「探す努力ってか……タカ丸さんが有名になったら、自然と髪の綺麗な人もお客として来るんじゃないですか?」
「……! 三郎次くん、賢いねえ」


気付いてなかったんかい。
三郎次の心の声は、兵助だけに聞こえた。


「じゃあ久々知くんと三郎次くんなら、どんなお願い事する?」
「え、ぼくは願い事なんて……」
「うーん、『美味しい豆腐がこれからも食べられますように』かな」
「あはは、久々知くんらしい!」
「でもいいお願い事ですね!」
「そうだろう? 美味しい食べ物は人を幸せにするからな」
「そうだねえ」
「特に久々知先輩のお豆腐はみんなが美味しいって言いますからね!」
「美味しいもんねー!」


ねー、と顔を見合わせるタカ丸と伊助に微笑む兵助。
確かに味は美味しい、それは三郎次だって思っているし、他の誰にだって文句は言わせないと思う程度には兵助の豆腐が好きだ。
ただ問題は、一度に作る量が多すぎるということだけで。


(……久々知先輩のお豆腐の量が適量になりますように、にするか)


こそりと胸中で呟いて、三郎次はくすりと笑った。







――
昔書いてたものにちょこっと付け足しただけのやつ。
大雨大雨で大変ですが、皆さんは短冊に何を願いましたか?





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