五年生未来お題

title by 「あの日」君想歌

*年齢操作、未来





1.追憶の彼方で消えない癖のような(雷蔵)

人を殺すこと。自分の心を殺すこと。そんなことにすっかり慣れて、学生時代、相方だった男よりも表情を作ることがうまくなったかもしれない。
淡々と仕事をこなしていく日々の中で、最近になってよく学生時代のことを思い出すようになった。卒業してから数年は周りの環境に馴染むことに必死で全くと良いほど忘れていたというのに。
学生の頃の記憶は、懐かしさと同時に何とも言えない感情を呼び起こす。甘かった、甘さが許されていたあの頃。五人なら何でもできると無邪気に信じていたあの頃。
今は、誰も僕の傍にいない。
昔のことを思い返す度に虚しくなるのは、今が楽しくないからだ。
分かっていても思い返すのは、昔に戻りたいからかもしれない。
変えられない自分に嫌気がさしても、僕はまた、生きるために今日を生きていく。


「……?」
久しぶりに我が家に帰ると、部屋のど真ん中に綺麗に三つ折りにされた文が置いてあった。





2.もう色さえ忘れたはずなのに(三郎)

漂う化粧の香りに、ようやく呼吸ができる気がした。同時に、ここ最近は鉄と煙の臭いしか嗅いでいないことに気づく。
こういう時、ついつい昔の自分と比べてしまう。学生の頃はもっと、自分の気持ちを切り替えることが上手かったと思うのだが。なんだか昔よりも弱くなったと思うのは、アイツらが傍にいないからだろうか。――いや、相方がいないからだ、きっと。私はそこまで寂しがり屋ではない。
そういえば、昔、まだ私達が五年生の頃。……あの頃が一番楽しかったと今になって思う。
あの頃、いつだったかふいに未来の話になったことがある。フリーになるか、城に勤めるか。仕えるならどの城か。
今思えば私達は随分プロ忍に夢を見ていた。既に人を殺したこともあったし、色の任務だってこなし、忍の世界が厳しいことは分かっていたはずなのに。所詮は私達も“卵”だったということか。
ともかくその時に、何かとても驚いたような気がする。なんだったか、確か、あの豆腐小僧の発言だったと思うのだが。


既に顔さえ朧気だった。
それなのに、部下が持ってきた文を読んで、全ての記憶が鮮明に蘇ったのだ。





3.分かり合えなかった過去(八左ヱ門)

衝突を避けるようになったのはいつ頃からか。いつの間にか、愛想笑いや作り笑いが随分とうまくなってしまった。
卒業してすぐこそ同期や部下、時には上司とも、分かり合えるまで話し合いをしていたのだが、いつの間にかそれも止めるようになった。話し合いをしても分かり合えない人はいる。それを理解したからかもしれない。
学生時代、俺はよく誰かと衝突していた。別段短気というわけではないと思っているが、どうも腹の内を隠して付き合うのが苦手だったのだ。同級生なら特に。
一番ぶつかっていたのは、恐らく隣のクラスの豆腐小僧。というのも、俺がよく失言やら丹精込めて作った豆腐をめちゃくちゃにしてしまうやら、毒虫を背中に入れるやら、と……とにかく俺が悪かったのだが。見た目によらずアイツは割かし短気で、すぐに手が出る。俺とアイツが喧嘩になると、必ずどちらかのクラスの学級委員長が止めに来るほどだった。
二番目にぶつかっていたのは、たぶんアイツと同じクラスの学級委員長だ。アイツは俺達の中で一番腹の内を隠すことがうまくて、俺はそれが気に入らなかった。卒業する最後の日まで、結局アイツのことは理解できなかった気がする。
だが、そんなもやもやも今日で終わりだ。理解できないのなら、また理解する努力をすればいいのだから。


上司に渡された文を読んで、俺は久しぶりに心の底から笑った。
やはりあの日言い出した突拍子もない約束を、豆腐小僧は本気で守るつもりだったらしい。





4.もうあの日には戻れない(勘右衛門)

今が楽しくないわけではない。この道を選んだのは自分だし、立派な忍になることは幼い頃からの目標だったのだから。
でも、どうしても思い出してしまう。
いつもつるんでいた五人全員の進級が決まり、祝杯をしていた時だ。誰から言い出したのか、ふいに未来の話になった。
どんな忍になりたいか。どんな殿なら仕えたいか。先輩達の就職先について。勿論教えてもらえるわけがないので推測でしかなかったけれど。そんな折、隣のクラスの迷い癖だったかバサバサ髪だったかが、ふと「卒業したらバラバラかあ」と呟いたのだ。
「当たり前だろ」と茶化す俺や変装名人の努力も意味なく、しんみりした空気をぶち壊したのが同じクラスだった豆腐小僧だった。
「だったら、みんなで一緒に仕事すればよくないか?」
あっけらかんと言ったアイツに、思わずみんな一瞬驚愕に固まって、「いやいや無理だろ!」とツッコんだのだ。
「じゃあ、卒業して十年経ったら迎えに行ってやるよ。約束な?」
にんまりと笑って言った言葉に、俺達はみんな呆れて苦笑した。
その言葉は信じなかった。少なくとも俺は、戯れの延長だと思っていた。
それでも鮮明に覚えている理由には、気付かない振りをして。


するりと部屋に入ってきた影に、俺は目を見開く。
悪戯に光る瞳は、あの日と全く同じだった。





5.これからを作り生きていくことに(五年生)

町の隅にひっそりと建っている豆腐屋の、座敷の奥。
店主とは忍仲間なのだと笑った兵助に、集められた四人は揃って「変わらないな」と苦笑する。
十年振りの約束の話を、それぞれきちんと思い出していた。
「まさか本気だとは思わなかったよ。僕はあの日のことすら忘れてたのに」
「えっ、雷蔵ひでえ。俺ずっと覚えてたのに」
「ごめん、冗談だと思って流してた」
「私も同じく。そもそも誰も同意してなかったしな」
「ほんと。つーかみんな文だったのに、なんで俺は問答無用で本人登場なんだよ」
あまり乗り気ではない様子の名物コンビと勘右衛門に、八左ヱ門は少し困ったように眉を寄せる。問われた兵助は、出された豆腐料理にウキウキと手を付けつつ笑った。
「だって勘右衛門は文飛ばしても来なかっただろ? 雷蔵と三郎が忘れてるだろうなーってことも分かってたから、実は八左ヱ門よりも前に文出したんだよね。悩むと思ったし」
最終的にはみんな来ると思ったけど。勘右衛門以外。
その通りの現状に三人は黙り込む。八左ヱ門が苦笑した。
「お前、なんか全然変わってないな……」
「そうか? 成長はしたぞ?」
「うん、そういう意味じゃない」
「まあ言いたいこともあるだろうけど、とりあえず料理食べなよ。ここの豆腐、俺のお墨付きなんだから」
鼻歌でも歌いだしそうなくらい嬉しそうに料理を食べる兵助に毒気を抜かれ、それぞれ苦笑して料理に手を付け始める。
兵助は昔からそうだった。豆腐が大好きで、マイペースで。――誰よりも、場の空気を整えるのがうまいのだ。

「フリーの雷蔵と派遣の勘右衛門がうちに就職して、うちと八左ヱ門と三郎の城が同盟組めばいいんだよ。ちなみに既にそれぞれの殿に話はしてある」
食後にそんな爆弾発言を良い笑顔と共に落とされて。
ああ、いつまでも自分達はこいつに振り回されるのだろう、と、四人はひっそりと笑い合った。






――
お久しぶりにりはびり。文章書くの久々すぎてなんとも。
まだミュ観られてないんですが、レポ読み漁った感じの(簡易)五年生観。
兵助さんは引っ張っていくリーダータイプというより、なんというかこう、みんなの気を抜かせる役というか、場を和ませる調整役というか、そんな感じなイメージに。リーダーシップ発揮するのは火薬委員会の前でだけかもしれない。
そして一番悩むっていうか、ごちゃごちゃしてるのは勘右衛門。キラキラした思い出はいらない、不必要だと思いながら、完全には手放せない。捨てられない。たぶん忍としての矜持がとても高い。
五ろのイメージはあんまり変わってないかな?いや、ミュ観られたら変わるかもしれないけど。
とにかく五年生の光は久々知さんだな!という話が書きたかったんだ。




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