Imitation gift.




もう12年も経つのか。学園で過ごした日々の倍の数字に感慨深くなる。
いろいろなことがあったけど、積み重ねてきたことは変わらない。絆も、技術も、気持ちも、どんどん磨かれていくんだ。




Imitation gift





久しぶりにデパ地下に寄った。今日は八左ヱ門は仕事で遅くなるそうなので、三郎か雷蔵と一緒に飲もうかなという算段も込みで。
二人の働いている洋菓子店は、まあデパ地下というだけあって値段もそれなり。でもセンスの良い感じの店構えで、味も繊細で美味しいのだ。

「こんにちはー。どっちかいますか?」
「あら久々知くん、こんにちはー。今日は鉢屋くんだけよ。もうすぐ終わるから待ってる?」

何回か来てるし、来るたびに三郎と雷蔵と話をするので他の店員さんとも自然と顔見知りになった。デパ地下内の美味しいお店とか教えてもらえるし良い人達だね、と言ったら三郎に呆れられたのはいまだになんでか分からないけど。

「じゃあ待ってます。今日はどれがおすすめですか?」

さすがに冷やかしと思われるのはよくないのでおすすめのものを買って帰る。今日のおすすめは三郎作のマロンクリームモンブランらしい。名前からして美味しそうだ。
店員さんときゃっきゃと話していると、三郎が顔を出した。

「あれ、兵助」
「やあ三郎。今日暇?」
「いつも突然だな君は……暇だけど」
「うちで飲まないか? 八左ヱ門が遅いらしくて暇なんだ」
「いいよ。あと15分くらいで終わるから待ってろ」
「了解。その間におつまみとお酒買ってくるけどいるものある?」
「あー、辛いもの」
「抽象的だな……分かったよ」

甘いものばっかり作るから反動かな?
店員さんがモンブランは取っておいてくれるというので、先にお酒とおつまみを買いに行ってくることにした。お酒も甘いものは嫌だろうし、今日は日本酒とかいっとくか。三郎そんな酒強くないけど、まあ酔い潰れてうちに泊まるなんてしょっちゅうだしいいだろう。たぶん八左ヱ門も帰ってきて飲んでたら一緒に飲むだろうし。

そうして適当に選んで三郎を待って、モンブランと豆乳ケーキを二つずつ買って一緒に帰った。
うちの豆腐屋でも豆乳ケーキみたいなデザートは扱ってるけど、やっぱパティシエの作るケーキは俺らが作るケーキとは違うんだよな。当然だけど。
帰り道にそんな話もしつつ、二人で並んで歩く。

「今日雷蔵は?」
「研修。泊まりだから今日一人だったんだよ」
「へえ、どこに?」
「フランス」
「すごいな! 海外かあ。フランスって豆腐あるの?」
「君はそればっかりだな……まあ、面白そうなものがあったら買ってくるってさ」
「豆腐関連のもの買ってきてくれないかなあ」

学生の時は人探しに時間も割けたけど、今は年に一回行けたら良い方だ。でも諦めてはいない。他の子達も探してるし、SNSを使って探してもいる。
ただ、海外は行ったことないな。立花先輩とか潮江先輩とか、世界中飛び回ってる人もいるんだから海外生活してる人もいるかもしれないのに。

「今年の捜索は海外にするかあ」
「言うと思った」
「どこ行く? とりあえずポルトガル?」
「はは! 私も雷蔵に同じこと言った」
「まじか」

俺と三郎は結構話も合わないし、性格もかなり違う。でも変なところで一致することがあって、よく雷蔵に「なんでそこで息ぴったりなんだよ!」って怒られることが昔からあった。首席だった三郎と次席だった俺が組むとロクなことにならないらしい。三郎と二人だといけるんじゃね? と思ってしまうことが多いからぐうの音も出ない。

「八左ヱ門は忙しいのか?」
「今の時期はね。先輩達と合同の夜間訓練よりはマシだって頑張ってるけど」
「アレと比べる時点で相当キてないか」

家に帰り、買ったおつまみとお酒を並べる。ラインナップに三郎がちょっと嬉しそうな顔をしたので、チョイスは成功だったらしい。

「揚げ出しとか唐揚げは定番として、チャンプルー? 珍しいな」
「だろ? 見たら食べたくなってさ」

かんぱーい。
いつものノリでグラスを合わせて一口。やっぱり日本酒はいいねえ。

「うぉ、結構キツイな」
「そう? でも美味しいね。京都のだって」
「確かに味は好みだが。……まあいいか、お前んちだしな」
「そうだよ、前後不覚になるほど酔えるのは宅飲みの醍醐味! 飲も飲も」
「なんだその醍醐味」

呆れて笑う三郎に笑い返して、チャンプルーにも口をつける。
うおお、シンプルな味付けで美味しい。豆腐がゴーヤの苦味をマイルドにしてて、味付けがシンプルだから素材そのものの味も引き立ってる。惣菜だからそこまで期待してなかったけど、侮れないなデパ地下。

「……ほんっと、美味そうに食べるな君は」
「美味しいもん。三郎も食べなよ」
「食べてるよ。思ってたよりは美味い」
「ね。スーパーのよりは美味しいだろうとは思ってたけど、普通にレストランで出てきても通用する味だよ。デパ地下すごいなあ」

箸が止まらない。パクパク食べる俺を、三郎は楽しそうに見ていた。
三郎って、昔からそうなんだよな。豆腐を食べるよりも、俺が豆腐を食べる姿を見る方が好きらしい。人が美味しそうに食べる姿が好きとかなんとか……。

「あ、だからパティシエ?」
「は?」

そもそも人間観察が趣味みたいなとこあるし、人が好きなんだよな。
イタズラ好きだから勘違いされることも多いけど、基本的にこいつは人が喜ぶことが好きなのだ。ややこしい奴だけど、それが鉢屋三郎だ。

「急になんだよ?」
「いや、三郎って凝り性で努力家で、昔からすごいなって」
「はい?」
「モンブラン美味しそうだったよ」
「もう酔ってるのか」
「まだ一杯しか飲んでませんー」

君もそんな強い方じゃないだろとかぶつぶつ言われたけど、ほんとにまだ酔ってない……と思う。頭ふわふわしてないし。

「……私は真似するのが上手いだけだよ」
「器用だもんね。俺、三郎の豆乳ケーキ真似して作ってみたけど同じ味にならなかったしさ」
「え……私の?」

驚いた顔をされて、どうしてそんなに驚くのか分からなくて首を傾げる。豆腐屋に並べるケーキといえど、良いところは真似したいだろう。

「これでも豆腐のデザートとか料理とか、ちゃんと研究してるんだよ。良いもの作るのに良いところはどんどん取り入れるべきじゃない?」
「好きだから買ってたわけじゃなかったのか……!」
「それは……好きだから買ってるところもある……」

なーんだ、って顔しないでほしい。好きが高じて豆腐屋に就職した男だぞ俺は。

「でもそういうものにしろ、豆腐作りにしろ、良いものを作っていくなら良いものを真似していった方が早いだろ? 学ぶは"真似ぶ"からきた言葉だって、昔土井先生も言ってた」

俺の体術なんて、ほとんど先輩達の体の使い方が元になっている。体の使い方を真似しているうちに体術が得意になって、それを活かせる寸鉄を得物にしたのだ。

「真似して、磨いて、自分のものにしていく。生きていく限りそんなことの連続だと思うよ」

何を悩んでいるのかは知らないが、学ぶことは真似することから始まる。赤ちゃんだって、親の笑みを真似して笑顔を覚えるのだ。

「……君さあ」

三郎は大きな溜息をついた。

「雷蔵からなんか聞いてた?」
「いや? まあ、"三郎と飲みに行ってやって"とは言われたけど」
「雷蔵……!」

じゃなけりゃふらっとデパ地下なんか行かないって。雷蔵がフランス研修行ってたのは知らなかったけど。

「なんか、いろいろ考えてるのがバカらしくなった」

三郎がドンと新しい日本酒の瓶をテーブルの上に置いた。目が据わってるんだけど、あれ? 悩みは?

「今日はもうベロベロに呑んで兵助に世話させてやるから! 覚悟しろ!」
「なんで!?」
「うるさいないつもマイペースにさらっと解決しやがって! くそ!」
「どういうこと!? ちょ、ちょっと三郎! ちゃんと水は飲めって明日困るのお前!」

何故かは分からないけど、その日三郎は宣言通り盛大に日本酒を飲んで、盛大に酔っ払った。帰ってきた八左ヱ門も絡まれて一緒に飲んで、翌日二人とも二日酔いでボロボロになっていた。
馬鹿だろと思ったけど、まあ、なんかすっきりした顔してたから良いのかな……?






Imitation gift
(「真似は偽物じゃなくて、始めるための一歩ってことか……」)(「やっぱり兵助に任せて正解だったねえ」)(「……今度湯葉のケーキ開発しよう」)





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