I and you.

*死亡表現あり






出会ってから11年。二桁になった月日を思うと、なんだか感慨深くなる。
連絡を取るだけでも何日もかかって、いつ死んだっておかしくなかった日々を思う。スマホひとつで簡単に連絡できて、なんなら顔だって見られる。会おうと思えばすぐにでも会える。
それが素晴らしいことだと、今日も忘れずに生きていこう。








I and you.








ビデオチャットは毎日のようにしているが、住む場所がそもそも違うため勘右衛門や木下先生と直接会えることはなかなか無い。同棲している八左ヱ門や近くに住んでいる三郎と雷蔵とは頻繁に会って飲んで遊ぶので、自分から京都に行ったくせに勘右衛門には度々羨ましがられていた。
五人の予定は合わなかったが、久しぶりにい組だけで会うのも良いだろうと、二泊三日の小旅行だ。

「へーすけ、久しぶりー!」
「久しぶり。変わんないね」
「一年も経ってないしな」

京都の街はあの日、木下先生に再会して以来だ。いつも勘右衛門や木下先生がこちらに来ていた。いつ見ても景色は美しいし、どこか懐かしさを感じる町並み。

「いったんうちくる?」
「どっちでもいいよ。荷物は軽いし」
「んじゃ、勘ちゃんのスペシャル食べ歩きツアーでもするか〜」

持っていた鞄を持ってくれた勘右衛門が笑って歩き出す。楽しそうな背中に笑いながら、勘右衛門の背についていく。
夜は木下先生がご馳走を振る舞ってくれるらしい。それまで歩き回って京都のグルメを堪能するのも悪くない。



「豆乳ドーナツ……!」
「美味そうだろう」

かくして、勘右衛門の食べ歩きツアーはおれの好きなものばかりだった。豆乳ドーナツに始まり、豆腐アイス、湯葉のジェラート、寒くなったら湯葉スープ。
他にも芋を使ったおやつやどら焼き、唐揚げも食べた。
沢山食べた気がするけど、歩いているからか単純にテンションが高いからか、腹が満ちた気はしない。まだまだいくらでも食べられる。

「それにしてもこんなところよく知ってるね。おれ一人だったら絶対素通りしてたよ」
「ん〜? まあ、こっちに来てからあちこち見て回ってたら自然とね」
「さすが勘右衛門」
休憩に二人して頼んだあんみつを食べながらのんびり喋る。最近八左ヱ門が仕事で楽しそうとか、三郎が接客から製作の方に移ったとか、雷蔵がクレーム処理大変そうだったとか、木下先生が空手道場の生徒から"鬼瓦"と呼ばれていたとか。他にも、潮江先輩が書いた本の話や、きり丸が営んでいる便利屋のトンデモエピソード。どれだけ時間が合っても、あいつらの話はつきない。

「京都に行くって聞いた時は驚いたけど、楽しそうだね」
「まあね。大変だけど楽しいよ」
「勘右衛門は誰とでもやれるしね。楽しそうで良かった」
「それは兵助も同じだろ? 八左ヱ門とラブラブで何よりだよ」
「ラブラブ言うなって……」

雷蔵も三郎も同じことを言う。

「卒業から最期まで知ってるからね。からかってるわけじゃなくて、良かったなーって思うんだよ」
「……」

おれの最期は、正直あまり覚えていない。八左ヱ門の方がおれより先に逝ってしまったことは覚えている。
卒業してからはあまり会うこともなく、たまに勘右衛門や雷蔵から手紙が来て、それぞれの近況を知るくらいだった。その中で、八左ヱ門の訃報を聞いた。既に三郎は亡くなっていた。
それからの日々は色あせていた。それでも生きるために仕事をして、ご飯を食べて、たまに友人達と会って話して、遊んで。そのうち雷蔵も死んでしまって、おれと勘右衛門だけになって。
ある時、仕事で一つヘマをした。それが致命傷だった。追手がかかる中でどうにか捌いて、傷つけ、殺して、傷つけられて、背後から爆発音が聞こえて――それからの記憶がない。

「……勘右衛門を見ててもそう思うよ」
「ん?」
「一人にしてしまったから、今楽しそうで良かったなって」

あんみつを食べながら笑えば、勘右衛門は少しだけ目を見開いて微笑んだ。

「そんなこと気にしてたの?」
「気にするよ。なんならあの頃はもう、勘右衛門がいるから生きてたようなものだったし」

勘右衛門の丸い目が更に丸くなる。珍しい表情に声をあげて笑った。
意識がなくなる直前、浮かんだのは八左ヱ門のことじゃなかった。八左ヱ門も雷蔵も三郎もいなくなってしまって、それでもおれが生きていたのは勘右衛門が傍にいてくれたからだ。頻繁に会うことはなかったが、おれがどうしようもなく寂しくなったり生きるのを辞めたくなったり、そういう時に必ず勘右衛門は現れる。家に来ることもあれば、手紙だけの時もあった。それでもそれに、おれはずっと励まされて生きていた。
学生の頃からそうだ。勘右衛門にはずっと支えられていたし、助けられていた。おれがどれだけ返せたのかは分からないし、八左ヱ門が死んでからのことを思えば全く返せていないと思う。
それでも、今勘右衛門がこうして楽しそうに生きて、笑っている。それがおれは、とんでもなく嬉しいのだ。きっと、勘右衛門が思っている以上に。

「今おまえが好きなことをしながら生きて、笑っているのがたまらなく嬉しいよ」

珍しく勘右衛門が顔を真っ赤にして照れたので、それを夕食の時に木下先生に報告したら、木下先生はとても嬉しそうな顔をしていた。








I and you.
(「おまえは本当に天然爆弾だね」)(「どういう意味?」)(「……いや、そのままのお前でいてくれよ、親友」)








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