Infinity the world.




早いもので、みんなと再会してもう十年の月日が経った。再会する前のことはもう思い出せないくらい、みんなが傍にいることが当たり前で。
だからこそ、当たり前だと思うことに、感謝を込めて。








Infinity the world.








学年や委員会やクラス、あと個人的に付き合いがある場合。
その面々で集まることはあっても、今会えた全員で会うことは、まだ出来ていなかった。
単純に大人数すぎて誰かしらの都合が合わないというものが大きかったが、それだけではなく。みんないるのにあの子だけいない、という寂しさに直面してしまうことが分かっているからだ。

それでも頑張って集まらないか、とみんなに言ったのは、単純に。みんなに会いたかったからだ。
だってこれはもう本当に奇跡みたいなものだと思うんだ。再会だけならともかく、みんながあの頃の記憶を持って、覚えて無くてもあの頃の誰かに会えば、あの頃のことを思い出せるって。
だから感謝したかったんだ。こんな奇跡をもたらしてくれた誰かと、いつだって一緒にいてくれた、みんなに。

「「かんぱーい!!!」」
「何回目の乾杯だよ、しかもジュースで」
「まあまあいいじゃない、遠いからなかなか会えないんだし」
「毎日ビデオチャットしてるけどなー」

場所はしんべヱの店、小料理屋ふくとみ。
しんべヱとパパさんに頼み込んで、一日貸し切りにしてもらった。もちろん代金はみんなで折半だ。人数が多いので一人三千円もいかなかった。
俺達や孫兵は休みが取れたけど、全員が全員そういうわけにもいかず。それでも半休だったり、数時間だけだったり、どうにか調整して午後の一時間だけ、今確認している全員が集まることができた。
お陰でどこもかしこも大騒ぎだ。

「立花せんぱーい! お久しぶりです!」
「兵太夫、伝七。久しいな。元気そうで何よりだ」
「はい! 先輩は今どこに住んでるんですか?」
「こいつは世界中飛び回ってんだよ」
「ん? 潮江先輩もそうじゃないんですか?」
「そう。だから余計なかなか会えなかったんだろうな」
「団蔵もそうじゃん? 宅配業者」
「佐吉もフリーランスの会計士だから似たようなもんだろ」
「会計委員会は一つどころにとどまれないのか」
「いや仙蔵、お前もとどまれてないから」

委員会での集まりだったり、

「守一郎さん、ジュース飲みます?」
「ああ、じゃあ貰うよ。ありがとな、えーと……」
「怪士丸です。ぼくらあんまり関わりありませんでしたもんね」
「そうだけど、顔は覚えてるんだよ」
「ちなみにぼくは伏木蔵です〜」
「保健委員会の子だよね? 乱太郎と一緒の」
「そうそう! 怪士丸は図書委員会でした」
「ああ! そうだ、本返すの、時々手伝ってくれたよね」
「はい〜」

思わぬ組み合わせだったり、

「人とヘビどっちもジュンコって、ややこしくありません?」
「呼ばれると意外と分かるものですよ?」
「愛の力ってやつだな!」
「神崎先輩、なかなかクサイ台詞吐きますね……」
「あはは、まあいいじゃない」
「伊賀崎先輩、ジュンコってお肉食べられます?」
「味ついてなければ。あ、焼き肉用? 大丈夫だよ」
「ジュンコ〜、お肉だよ〜」

現世でできた縁だったり。
様々な組み合わせで、集まって騒ぐ。
八左ヱ門達も適当にいろんな組み合わせのところに顔を出して、現世の話だったり、前世の話だったり。
そうやってみんなが笑って楽しんでいる。この光景を見ることが、すごく嬉しい。

「久々知せんぱーい! お豆腐チョコレートケーキですって!」
「えっ、なにそれ! 美味そう!」

しんべヱに呼ばれて慌てて駆け寄る。聞くとパパさんが俺のために作ってくれたらしい。何度か店を使わせて貰っているのと、以前店で新メニューを考えたことがあるからそのお礼に、だそうで。今回はホールケーキだけど、評判が良ければショートにして店で売り出すらしい。そんな場面に立ち会えるなんて感激だ。

「さっ、どうぞ!」
「ありがとう!!」

シンプルにクリームも塗られていない、見た目はガトーショコラのような佇まい。しんべヱが切り分けてくれた断面はチョコレート生地がぎゅっと詰まっている。
フォークを入れれば微かな弾力。ふわっふわだ。美味しそう。

「いただきます」

ぱくりと一口。
なめらかな舌触りと濃厚なチョコレート。生地というよりチョコレートだ。そこに微かに香る豆腐の匂い。とはいえ本当に微かで、チョコレートの方が強い。
豆腐を入れたお陰で生地はふわふわかつ濃厚だ。

「美味しい! すごく美味しいよしんべヱ!」
「えへへ、ありがとうございます!」
「間違いなく売れると思う!!」
「やったあ!」

俺が大喜びしたところで、先輩達や八左ヱ門達もどれどれと食べ始める。あちこちから聞こえる「美味い!」「いいなあこれ!」という褒め言葉に俺も嬉しくなった。

「久々知先輩、ありがとうございます!」
「へ?」

唐突なしんべヱの言葉に首を傾げる。豆腐ケーキのお礼か?

「だって、久々知先輩がいなかったら、みんなこうやって会えなかったですから!」

え?

「そうだね! ぼくらの代は会えたけど、久々知先輩が探そうとしてくれなきゃ、先輩達とも会えなかったもん」
「確かに。探してくれたのはお前達もだが、発端は久々知なんだったな」
「ああ」
「そうですよ! 言い出しっぺは兵助です」
「先生達とも会えたしね」
「わしらも感謝しているぞ、兵助。まさかまた教え子と会えるとは思わなかったからな」

気付くと、みんなが優しい目を向けていて。
発端とか、感謝されるいわれなんて無い。だって俺が、みんなに会いたかっただけなんだ。
でも。そう思ってくれるのは、すごく嬉しい。

「……俺の方こそ、ありがとうございます」

みんながいてくれて、それからあの頃のことを覚えていて。忘れていても、思い出して。
今いない人達も、きっとどこかで生きていると信じている。
会いたいと寂しくなることもある。いないのかと不安になるときもある。
それでも、信じて、生きていこう。

「大好きです」

奇跡は何度起きても、良いのだから。








Infinity the world.
(世界はそうやって、廻っていくのだから。)








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