In love again.



そうして八年。
かつての仲間と、新しい友人と。
縁はいつまでも、どこまでも、繋がっていく。







In love again.







俺達全員が無事に社会人になり、微かに会う頻度が減った。
とはいえしょっちゅう電話しているし、今はビデオチャットもボタン一つでできる時代だ。京都に行ってしまった勘右衛門や木下先生にも数時間で会いに行ける。
雷蔵と三郎も週に数度泊りに来るし、先輩方や後輩達にも頻繁に会いに行く。
つくづく良い時代になったもんだ。
勿論良いことばかりでは無いけれど、それでも。

前世の仲間達を探すことは、今もちゃんと継続している。俺達だけじゃなくて、先輩方も後輩達も、先生方もあちこちから情報を仕入れてくる。
見つからない仲間もまだたくさんいるけど、見つかった仲間も増えた。
そのうち予定を合わせて、全員で会いたいと思っている。人数が多いからなかなか難しいが。

八左ヱ門との結婚生活も順調だ。とても。
元々俺も八左ヱ門も思ったことははっきり言う性質だし、だからこそ喧嘩も多いけどそれを長引かせることはなく。勘右衛門曰く好きなもの(豆腐と虫)の愛で方も似ている、とのこと。
付き合いも長いのでお互いの短所も地雷も分かっている。ま、これは他の奴らにも言えることだが。
ここまで順調だと普通は“刺激が欲しい”とか思うのかもしれないけれど、不満は全くない。俺達はみんな昔の記憶があるからか、穏やかな日々がどれだけ大切なものなのか知っている。身をもって。
だから平穏な今の日々に不満などない。

とはいえ。
いや、だからこそ。

記念日は、大切にしたいと思うのだ。


『木婚式?』
『っていうらしいぞ、結婚五年目』
『金婚式とかと同じ感じ? へ〜いろいろあるんだねえ』
「うん。せっかくだし、何かしたくてさ」


八左ヱ門が残業で遅い日、ビデオチャットを繋いで友人達に相談する。
俺も含めてだけど、俺達の学年はなんだかやたらとサプライズとかお祭り騒ぎの好きなやつが多かった。みんなで騒ぐの楽しいからね。
俺の愚痴めいた相談に、画面の向こうでそれぞれ別の種類の笑みを浮かべた。


『相変わらずラブラブだねえ』
『ぜーたくな悩みだなあ』
『でも幸せそうで何よりだよ』
『うん。でも何をするか……』
『バカ、記念日ならやることは一つだろう?』


一番悪い笑みを浮かべていた三郎に視線を向ける。嫌な予感しかしない。


『プレゼントはわ・た・し…』
『却下』
「そういうのはいいから」
『三郎……』
『えっ、いやいやジョークだぞ? ちょっと雷蔵さん? ヤメテその目!』


バカはお前だ。
雷蔵の冷め切った目に画面の前で突っ伏すバカに呆れて溜息を吐く。なんでそういつも身体を張ったボケをかますんだお前は……。
なんて思っていると、同じように呆れていた勘右衛門が俺に視線を向けた。


『何かするってのは、サプライズ? プレゼント?』
「うーんん、形に残るものは何か用意するつもりだけど」
『どこか出かけるとか?』
「でも最近忙しそうだからなあ」


八左ヱ門が記念日を覚えているかも分からないし。そもそも記念日を祝ったのは一年目だけだったし、今回は節目だから何かしようと勝手に思っただけだから、八左ヱ門が覚えているなら嬉しいけど、覚えていなくても構わない。
穏やかにその日を過ごせるなら、それが何よりだと思うのだ。


『それなら、お前の豆腐料理がいいんじゃないか?』
「え?」


三郎の言葉に瞬けば、勘右衛門と雷蔵がぱあっと顔を輝かせた。


『そうだよ! その手があったじゃん!』
『兵助と再会できたのも豆腐のお陰だったもんね! 記念日にぴったりじゃない?』
『いやあ三郎にしては良い案だすねー!』
『おい俺にしてはってなんだ!』
「でも豆腐料理なんてしょっちゅう作ってるよ? 特別感なくない?」


いつもの如くぎゃあぎゃあと口喧嘩を始めた三郎と勘右衛門を気にせず尋ねると、二人はピタリと口を噤む。
そして雷蔵も含めた三人で、ニヤリと笑った。


『特別な豆腐料理を作ればいいのさ』
『てかさあ、お前とおれ達を繋いだものなんだから、豆腐は充分特別だろー?』
『でも料理は私達じゃなくて、君が考えろ。意味ないからな』


全く、こういう時だけ息ピッタリだ。
苦笑を零すと、三人は楽しそうに笑った。


『お前が八左ヱ門を思って作るなら、なんだって正解だよ』


勘右衛門の言葉を最後にそれぞれと通話が切れる。
タイミングよく、カチャリと八左ヱ門が帰ってきた音がした。

……本当にこういう時だけ息ピッタリだなお前らは!!





記念日当日。
八左ヱ門はここ数日忙しかったにも関わらず、今日は早く帰ってくるらしい。覚えている素振りなんて全然見せなかったけれど、どうやら覚えていたようだ。

俺の方も準備は万端。贈る物も作る物も散々悩んだけど、結局これしかない! という結論に達した。喜んでくれなかった、ということは無いだろう。
ちなみに孫兵達には理由を話して今日は早く帰らせてもらった。というか、いつもの時間に帰ろうとしたら、「記念日は大事な人と大事に過ごす日ですよ何やってんですか!」と謎の理論で怒られた。

でも、公的には何の証明にもならない、傍から見ればごっこ遊びのようなことも、俺達の周りの人達は本気で祝ってくれる。
それはとても、幸せなことだ。


「ただいまー」
「おかえりー」


いつもより早い時間。まだほんのり明るい夕刻に、八左ヱ門が帰ってきた。ダイニングに料理を並べながら返事をする。
やっぱり何か買ってきたようで、八左ヱ門の足音と共にガサリと袋の音がした。


「兵助、――!」


ドアが開く。
俺を見て穏やかな笑みを浮かべた八左ヱ門が、料理を見て目を丸くする。驚きが、喜びと懐かしさに染まっていく。
してやったり、と思うと同時に少しだけホッとして、それから俺も嬉しくなった。

テーブルの上にあるのは、蝶やカエル、蛇やカブトムシ――様々な虫や動物の形をした豆腐。

かつての人生で。
俺と八左ヱ門が更に仲を深めた、料理だった。


「おほ〜……」
「懐かしいな、ソレ!」


思わず吹き出すと、八左ヱ門も「あ、思わず」と頬を染めて笑う。
その表情がとても愛おしく思えて頬を緩めると、八左ヱ門は思い出したように手に持っていた袋をテーブルに置いた。
ガサガサと開けて、出てきたのは。


「時計?」
「うん。木婚式にちなんで木製の時計」


オシャレな木製の壁掛け時計。
どこに掛けるのかと思えば、寝室らしい。なんだか今更になって、勘右衛門に「ラブラブ」と揶揄されたことを思い出した。


「これからも一緒に時を刻んでいこう、っていう、意味があるんだって」
「っ!」


思わず二人して真っ赤になる。
いや勿論別れるつもりはさらさら無いが。八左ヱ門から別れを切り出されるとも思っていないが。それでもなんだか恥ずかしい。
しかしこの勢いでなければ、俺のプレゼントは渡せない気がした。
熱い頬のまま、椅子に置いていたプレゼントを開けて渡す。


「え、料理にプレゼントまであんの!?」
「形に残るものを渡したかったんだよ」
「あー、俺もケーキかなんか買ってくれば良かったな。……箸?」


俺の方も、木婚式にちなんで木製の箸。しかもお揃いだ。


「……箸はね、二本が寄り添うから夫婦を連想されて、“人や幸せを結びつける橋渡し”って意味があるんだって。あと“食べるものに困らない”とか」


ふんふんと頷きながら聞いてくれる八左ヱ門に微笑む。


「……だからまあ、夫婦としてこれからも、毎日味噌汁を作ります、というか。勘右衛門達や孫兵達に、二人で幸せの橋渡しができればいいな、というか」


結局のところ、言いたいことは八左ヱ門と同じだ。
これからもずっと一緒にいよう、というシンプルな。勿論俺達二人に限らず、前世の仲間や、今生でできた友人達も含めて。
皆まで言わなくても八左ヱ門は分かってくれたようで、けれど想像していた輝くような笑顔ではなくて、緩く穏やかな笑みを浮かべた。


「俺は、お前のそういうところが凄く大好きだよ」


そういって抱きしめられる。
表情で、全身で、愛おしいと言われている。言葉にしなくても、こんなにも思いが伝わってくる。
ありったけの返事を込めて、俺もその身体を抱きしめ返した。

それから、俺が贈った箸で昔と同じ豆腐料理を食べた。
八左ヱ門は昔と同じように幸せそうな表情でパクパクと食べてくれて、俺も昔と同じように幸せになった。

眠る前。木製の時計が掛かった寝室で八左ヱ門に言われたことは、きっと生涯忘れないだろう。







In love again.
(「何度だって、どうやったって、きっと俺はお前に恋をするよ。」)







修正 19.11.17



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