本日応援!

*こへ滝、長←くく、長カメ、仄めかす程度に食満くく






バイトが終わり、私服に着替えて店を出ると物凄い風が吹いた。
何!? 竜巻!? と腕で顔を隠すと、聞き覚えのある声が後ろから聞こえる。


「おお久々知! ちょっと相談に乗ってくれ!」


突風の正体は七松先輩だった。


「カフェオレとフルーツケーキ! お前は?」

「え……ああ、じゃあコーヒーとチーズケーキで」


何かを返す間もなく引っ張られ、結局バイト先に逆戻り。
店の前から席に着くまでの一連を見ていたのか、バイト仲間の数馬にクスクスと笑われた。
笑うのはいいけどちゃんと前向かないと転ぶぞ、あ、転んだ。なんも持ってなくて良かった。


「あいつ、伊作に似てるよなあ」

「同感です」

「今度伊作も連れてきてやろう」

「……不運タイフーンが起こらなけりゃいいんですが」

「なんだそれ」


不運タイフーンは不運タイフーンですよ。
それにしても、善法寺先輩もそうだけど保健委員は全員不運をしっかり持ってきちゃったらしい。
まあ、七松先輩もアホみたいな体力とか、三郎も雷蔵への変態並みの執着心とか持って生まれたしな。やっぱり魂レベルで不運なのかな。


「でな、相談」

「ああ、はい。なんですか?」


カフェオレとコーヒーが運ばれてきて、一息ついたところで七松先輩がちらりと周囲を見渡してから声を潜める。


「実はこないだ、滝夜叉丸に告白したんだ」

「……え、ていうか、付き合ってなかったんですか?」


いきなりそんな話をされたことよりも、付き合ってなかったことに驚いた。
だって七松先輩がうちに遊びに来る時は大抵滝夜叉丸もいるし、いなくても七松先輩滝夜叉丸の話するし。
先輩を見ると、先輩も微かに瞠目していた。なんだ?


「……私達、そういう風に見えるか?」

「見えますね」

「そうか……なら、言わなくても良かったのかもしれんな」


そういって、先輩は苦く笑ってカフェオレを啜った。
珍しくそわそわしてると思ったら、落ち込んでたのかこの人。
ということは、告白はうまくいかなかったのだろうか。


「……滝夜叉丸の返事は?」


差支えなければ、と添えると先輩は軽く笑って、運ばれてきたフルーツケーキを一気に半分程食べた。
先輩って口大きいよな。たぶん胃袋も大きい。


「いやあ、『考えさせてください』ってだけなんだけどな。顔色が妙に悪かったというか、暗かったというか」

「暗かった?」

「あと、ここ最近目が合わない」

「つまり、振られる可能性が高いってことですか」

「お前本当にはっきり言うよなー」


七松先輩が苦笑する。
あ、この人へこんでるんだった。追い打ちかけちゃった。


「でも、なんで振るんでしょう?」

「んー……男同士だからとかじゃないか?」

「えー……滝夜叉丸ってそういうの気にしますか?」

「考えてみろ久々知、尊敬する先輩がホモなんだぞ? ショックだろ普通」

「……自虐なのか自惚れてんのかよくわかりませんが」


いや、何一つ間違ってはないんだけどさ。
チーズケーキを食べつつ、滝夜叉丸のことを考える。
前はあんまり関わりがなかったけど、今はうちが先輩達のたまり場なので前よりは関わりがある。
端から見ると付き合っているどころか夫婦のようにも見える二人だった。普通に両想いだと思ってた。
七松先輩を尊敬しているのは分かるけど、男が好きだからって幻滅するようなタイプかな。そもそも告白した時に暗い顔をしたってのも気になるし。


「…………よし」

「うん?」

「滝夜叉丸に聞いてみましょう。先輩滝夜叉丸の番号教えてください」

「は!?」


おお、この先輩が驚く顔は珍しい。
今日の先輩はいろいろ新鮮だなあ。


「こういうのはどっちにも肩入れしない第三者の方が話しやすかったりするんですって。早く電話番号」

「お、おお……お前、時々凄い強引だな」

「それほどでも」

「褒めてないぞ」


何故か苦笑する七松先輩に首を傾げつつ、教えてくれた番号を自分のスマホに打ち込んで電話をかける。
思い立ったが吉日っていうし、うん、まあ吉と出るか凶と出るかは分からないけど。でもやってみないことにはどうにもならないし。


「あ、先輩、黙っててくださいね」


コール音を聞きながら、たった二口でフルーツケーキを食べてしまった先輩に一口だけ食べたチーズケーキの皿を押しやる。
先輩は一つ頷いて、もくもくとチーズケーキを食べ始めた。静かにそれを食べていてください。

数回のコールの後、『……はい』と少し警戒するような滝夜叉丸の声が聞こえた。


『どちら様ですか』

「あ、もしもし? 久々知だけど」

『へっ? あ、久々知さん……?』

「うん、久々知兵助です。あ、ごめん、番号先輩から勝手に聞いた」

『ああ、いえ、それは構いませんが……』


警戒されそうなので七松先輩ということは伏せておく。
困惑する滝夜叉丸の声があまりにも普段とかけ離れていて、思わず笑ってしまった。


『久々知さん?』

「ああ、ごめん。……七松先輩に告白されたって聞いてさ。滝夜叉丸大丈夫かなーと思って」

『なっ、は、え!? 誰に……って、食満先輩しかいませんよね……』

「あはは……」


笑って誤魔化しておく。
おしゃべりな先輩! と思われているだろうが、まああの人実際おしゃべりだしいいや。


「それより、それで七松先輩が『振られる!』ってかなり落ち込んでるらしくてさ」

『え……振る? 私がですか?』

「うん。……うん? 振らないの?」


心底驚いたような滝夜叉丸の声に首を傾げる。
幻滅は無いと思っていたけど、振る気もなかったのだろうか。
七松先輩が黙ったまま顔を上げた。食べ終わるの早いよ。っていうか先輩の真顔怖い。なんだろうこの威圧感。
滝夜叉丸は少しの間考えるように黙り込んで、決意を込めるように息を吸った。


『……久々知さん、少し相談に乗ってもらえませんか?』

「……うん、俺で良ければ」

『……、…………、あの、』


躊躇っているのか、滝夜叉丸はなかなか言葉を紡がない。
言いづらいんだろうなあと思いつつ、どうしようか考える。
そしてふと思い出すことがあった。


「……俺ってさ、昔、中在家先輩のことが好きだったんだよね」

『えっ? そ、そうなんですか?』


驚く滝夜叉丸と同じように、七松先輩が目を瞠った。
同じような反応をする二人に苦笑を零す。


「うん。……好きだって気づいた時はものすっごい悩んだよ。男同士だし、先輩だし。まあ俺は男同士ってそんなに嫌悪はなかったんだけど、先輩は分からないし。そもそも俺と先輩なんて不釣り合いだとか思っちゃって。ね?」

『はい……分かります』

「でも、気持ちってのはどうにもならない。俺は先輩を見る度に好きだって気持ちが募って……とうとう、告白しようと決めた。受け入れて貰えたら嬉しいし、振られても自分の気持ちに区切りを付けられると思ったんだ」


黙って聞き続ける滝夜叉丸と七松先輩に笑って、息を吸い込む。
あの日の思い出は、いつ思い出してもほろ苦い。


「けど、中在家先輩が婚約者の女の子と……カメ子ちゃんと一緒にいるところを見てしまった。
その時初めて、中在家先輩が幸せそうに笑うところを見たんだ。それに気づいた時、俺はカメ子ちゃんには適わないって理解したよ」

『……っ』


滝夜叉丸が息を呑む音が聞こえた。
正面の七松先輩も、どこか痛そうな顔をしている。なんであなたが痛そうな顔をするんですか。


「まあすっごい後悔したんだけど、きっと先輩が彼女と出会う前に告白してたって、俺は先輩とそういう関係にはなれなかったと思う。俺は到底先輩にあんな表情させられないし」

『……そうですか……』

「そういうわけだからね、滝夜叉丸」


苦笑して、明るい声に切り替える。


「自分の気持ちに正直になってもいいと思うよ」


本当は、滝夜叉丸だって七松先輩が好きなんだろう?
だけど、自分は先輩とは不釣り合いだと考えてしまった。先輩が告白した時の暗い顔は幻滅なんかじゃない。
あの時の俺と同じ。
でも。
お前は両想いなんだから。


『久々知さん……っ』

「ちゃんと伝えてみなよ。きっと先輩も待ってるから」

『……はい……!』


お前達が幸せにならないとは言わせない。


「ありがとうな、久々知」


電話を切ってすぐ、七松先輩の携帯に電話がかかった。
滝夜叉丸からだ。
これから会いたい、と言ってきたらしい。


「いえいえ、勝手に昔話をしただけですから」


俺の分のコーヒー代も払ってくれる先輩にお礼を言って笑った。
昔話だと思える程度には、あの気持ちも昇華できている。
……食満先輩のお陰かな。


「それより、ちゃんと結果報告してくださいよ?」

「ああ、もちろんだ。また何かあったら頼むな!」


また何か起こす気か。
苦笑する俺に、先輩は軽く背中を叩いて走って店を出た。







本日応援!







後日、七松先輩と滝夜叉丸が二人揃って俺に「付き合います報告」をしてきた。
滝夜叉丸の悩みも解決したらしく、いつも通り高らかに笑っていた。

うん、やっぱりこの二人はこうやって明るく笑ってる方が似合うよな。



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