本日青春!

*食満くく
*一瞬だけ食満→伊作、くく→長次、雑伊、長カメ、鉢雷、竹勘、タカ綾






バイトから帰ると、マンションの部屋の前に泥まみれの人間が蹲っていた。
というか、同居人の先輩だ。
大方先輩の親友の不運に巻き込まれて鍵を失くしでもしたんだろう。割とよくあることだ。


「食満せんぱーい? 大丈夫ですか?」

「……久々知ぃ〜」

「はいはい、とりあえずシャワー浴びてシャワー」


手を伸ばして情けない声をあげる先輩の手を引っ張って、風呂場に突っ込む。
タオルと着替えを先輩の部屋から取ってきておいておき、俺はのんびり雑誌を読みながらコーヒーを啜る。
暫くすると髪を拭きながら出てくる先輩。
なんか無駄に色気がある。無駄に。
まあ、だからモテるんだろうな。


「ったくよぉ、伊作に巻き込まれてマンホールに落ちそうになるし、直後に車に泥水吹っかけられるし、文次郎のブォケは喧嘩ふっかけてくるし、小平太は相変わらず穴ばっか掘ってるし、んで鍵失くすし」

「相変わらずっすね、先輩方」


クスクス笑うと、先輩も喉でくつくつと笑う。そしてそのまま俺のコーヒーを飲んだ。
勝手に飲むな、と何度言っても聞かないのでもう何も言わない。


「つか先輩、ごはん作ってくださいよ」


今日は先輩の当番なのだが、さっきまで外にいたのでごはんが無い。
学校とバイトのあとなので割と本気で腹減った。
じろりと横目で先輩を見ると、あぁー……と唸り何かを考え始める。
食材買い忘れたとかだったら許さん。


「……悪い久々知、食いもん買い忘れたから出前で」

「やっぱりかこんにゃろう」

「いやーすっかり」


そんなわけで結局、今日の晩御飯は出前のピザになった。
豆腐サラダもつけてもらったし美味いけど、やっぱ手料理のが好きだな。


「そういや、今日久々に作兵衛に会ったぞ」

「あー、えっ、富松? 久々にその名前聞いた」

「だろー。今高校三年だって。受験生」

「へー、富松がねえ。てか富松って記憶あんの? 無かったでしたっけ?」


俺と先輩が同居を始めた一番のきっかけは、昔の――前世の――記憶があるからだ。
あの頃、忍者の学園の生徒だった俺達の中で、その頃の記憶を受け継いでいるのは今のところ食満先輩と俺だけ。周りにあの頃の友人達はみんないるのに、みんなは何も覚えていなかった。

けど、昔と同じように俺達は親友になったし、いろんなことを経て、三郎と雷蔵も、八左ヱ門と勘右衛門も、タカ丸さんと喜八郎も、付き合っている。
何も変わってない。


「作兵衛も無えよ。まあ俺達だけなんだろうな」

「ですねー。まぁいいですけどね、あいつらなんてなんも変わってないし」

「……まぁな。お前がちょっと馴れ馴れしくなったけどな」


笑いながらそんなことを言うもんだから俺も笑う。
唯一変わったことといえば俺と先輩が仲良くなったことと、善法寺先輩が雑渡さんと付き合っていること。
あの時代、善法寺先輩と雑渡さんは好き合っていたけど想いを告げることはしなかった。
食満先輩が善法寺先輩に好意を抱いているのに想いを秘めているのも、変わらないまま。


「しかし、不憫な恋愛をしますね」

「お前がそれを言うかね。長次に恋をしたお前が」


中在家先輩は、しんべヱの妹のカメ子ちゃんと婚約している。昔と同じく。
勿論気持ちは伝える気などない。
後輩のままでいる俺と、親友のままでいる先輩。俺達は、どこか似ている。


「なあ、久々知よぉ」


ピザやサラダのゴミを片付けてコップを洗っていると、テレビを観ながら食満先輩が声をかけてきた。
つーかご飯作んなかったんだから片付けくらいやれよ、とは思ったものの何も言わないでおく。


「なんすか?」

「恋がしたい」

「してるじゃん」


わけのわからないことを言い出すのは昔と変わらない。
ただ今日は、何かが少しだけ違った。


「伊作への想いはもう、家族愛に昇華しつつある。……お前もそうだろう」

「……なんなんです、突然……っ!」


気付けば俺は、いつの間にか近くにいた食満先輩の腕に閉じ込められていた。
驚くと言葉が出なくなるというのは本当のことらしい。


「……兵助」

「、」


恋は愛に変わり、愛は違う愛に代わる。
俺達はそろそろ、次の恋をしても良いのだろうか。








本日青春!








本気にしますよ、なんて茶化してみれば、本気になれよ、と唇を重ねられた。

五百年の想いに終止符を。
そして、二度目の恋に幸あらんことを。





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