本日快晴!
*鉢雷、竹勘、仄めかす程度にタカ綾、文仙
三郎と雷蔵はそりゃもう出会った時からラブラブだったし、付き合い始めてからは余計それに拍車がかかった。
八左ヱ門と勘右衛門も初々しいながらラブラブで、無意識にいっちゃいちゃいっちゃいちゃしてる。
そんなながら、四人とも俺をハブにはしないように一応気を使ってくれているようなのだが。
「超虚しい。いっそのこと俺抜かして遊んでくれって思う。ダブルデートしとけやって思う」
「あ〜……」
はぁ……、と盛大な溜息をついて机に突っ伏すと、目の前に座るタカ丸さんは苦笑する。
本当は今日も遊びに誘われていたのだが断って、タカ丸さんをわざわざカフェに呼び出して愚痴っている。
ちなみにこの人は喜八郎と付き合っているが、二人共俺に懐いてくれているので問題ない。というか、普段からスキンシップが激しいこの二人は特別”付き合ってますオーラ“を出さないから楽なのだ。
潮江先輩と立花先輩も同じ理由で楽だ。
「でも前みたいな雰囲気はもっと嫌なんでしょ?」
「そりゃお前、あんな双方から殺伐とされた雰囲気出されてみろ。理由知らねえし勘右衛門泣いてるし即行帰りたくなったわ」
前、というのは八左ヱ門と勘右衛門が付き合うきっかけになった時のことだ。
急に三郎に呼び出され、何事だと思ったら本当に何事だという状況だった。
まあよくよく聞いてみれば三郎と雷蔵の前で勢いで告白してしまった勘右衛門が恥ずかしさのあまり泣いてただけらしいんだけど、八左ヱ門がその告白を冗談と受け取ったようでそれで三郎と雷蔵が怒ってたのだ。
俺が勘違いを指摘して勘右衛門を宥めなかったらどうするつもりだったんだろう、あいつら。
「じゃあ良いじゃない、今の雰囲気は好きなんでしょ?」
「嫌とは言ってねえだろ? ただ、こう、いちゃいちゃされると独り身には辛いというか……」
「へーすけくんモテるじゃん」
「遊びで付き合えと?」
「……ぼくへーすけくんのそゆとこ好きだよ」
「?」
きょとんと首を傾げると、あははっ、と苦笑された。
何で苦笑されるのか分からないけど、興味も無いので流しておく。
あいつらと一緒にいるのが苦なわけじゃない。
ただ、付き合う前のあいつらの雰囲気がたまに懐かしいと思うだけで。
「へーすけくんは竹谷くん達のこと大好きなんだね」
「そりゃ、好きじゃないと一緒にいねえだろ」
「え、じゃあじゃあ、ぼくのことも!?」
「あ? 当然だろ。喜八郎も、三郎次も伊助も、木下先生も土井先生も先輩方も、ていうか俺と関わりのある奴みんな好きだ」
「おっ……とこまえぇ……流石へーすけくん……」
何故か感嘆しているタカ丸さんに軽く笑って、もうすっかり冷めてしまったコーヒーを啜る。
「要はさ、寂しいんだよ」
「……寂しい」
「うん。二組がラブラブいちゃいちゃしてるから、間に挟まれて。相手がいれば少しは違うんだろうけどねえ」
そうか、俺は寂しかったのか。
よく自分の感情には疎いとか鈍いとよく言われるが──そうか、寂しかったのか。
ぐずぐずだらだらと愚痴っていた時の気持ちが嘘のように、タカ丸さんの言葉はすとんと胸に落ちてきた。
「寂しかったのか、俺」
「ほんと、相変わらず自分の気持ちに鈍いなぁへーすけくんてば。自分以外の人の気持ちには鋭いってのにさあ」
「良いだろ別に」
「まあね、完璧だったら先輩としての立場がないもん」
「あんた後輩だろうが」
じろりとタカ丸さんを見るとちょっとだけ首をすくめながら「でも年上だもんっ!」と反論してくる。
その様子が年下のようで思わず笑ってしまった。
「ちょっ、へーすけくん!? 何で笑うの!」
「いやっ……ふ、ごめっ……、ははっ!」
「へーすけくん!」
なんだかツボに入ってしまったようで、暫く笑いか止まらなかった。
「もー……酷いよへーすけくん……」
「ごめんごめん、ツボった……」
「何でよ!?」
へにゃりと眉尻を下げるタカ丸さんに苦笑しつつ、ここは奢るからと宥める。
一瞬でありがとう! と笑顔になるこいつは、単に単純なだけなのか企んでたのか。……前者だろうな。
なんて考えていると、どこからか俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「「兵助!」」
「……八左ヱ門、勘右衛門?」
「お迎えみたいだねえ」
つーか店内、うるさい、と咎めると謝られるがその声すらでかい。
ちらりとタカ丸さんを見るとタカ丸さんもこちらを見ていて、思わず目が合って苦笑し合った。
「三郎と雷蔵が喧嘩しちゃってさ!」
「はあ? 何で……」
「俺らも詳しくは分かんねえんたけどさ、三郎が雷蔵のロールケーキ食べたとか食べてないとか……?」
「……あ、それ食ったの俺だ多分」
「「何やってんの!?」」
「いや、三郎が食っていいっつったから……まあロールケーキ買って行くかー……」
タカ丸さんにごめんと謝りついでに、二人分のお茶代をテーブルに置く。
そしてきょとんとするタカ丸さんに
「一杯くらいしか無理かもだけど、喜八郎誘ってまったりしろよ。ここのプリンアラモードめっちゃ美味いってしんべヱのお墨付きだから」
ぱちりとウインクして、伝票を持って席を立った。
タカ丸さんが後ろで「へーすけくん……!」と言っていたが気にしない。まあ今日時間貰った礼ってことで。
「兵ちゃんマジ男前! 惚れる!」
「だな、つーかお前しんべヱと接点あったっけ?」
「接点なら、まあ食満先輩繋がりで。でもプリンアラモードのことはここが俺のバイト先で、ここにしんべヱが来たことがあるからだよ」
「「マジでか」」
声を揃えた二人に仲良いなあと笑いつつ、店を出る。
まあ結局のところ、べたべたいちゃいちゃしててもこうやって頼ってくれて嬉しいわけで。それに、仲が良くないこいつらの中にいるのはやっぱり俺も嫌だし。
寂しい寂しいって言いつつ今の状態に満足してるんだな、なんて。
みんなうまくいけば良いな、とか柄にもなく思いながら。
本日快晴!
「……へーすけくんもだけど、あの四人だってへーすけくんがいないときっとだめなんだろうな。だって何か起きた時、真っ先に頼るのがへーすけくんなんだもん」
そんなことをタカ丸さんが呟いていたことは、知る由もなく。