あの先輩は、強い。



守一郎を拘束したまま、変装を解かずに見取り図の印があった場所へ向かう。城内も入り組んでおりまるで迷路のような部屋に、二人して溜息をつく。
立花先輩が偽の情報を掴まされたのも納得した。これは実際に入って見なければ分からない。

「くく先輩はよく覚えられたな……」
「まあ、火薬委員会だからな……」

タカ丸さんがすぐに覚えられたように、火薬委員会は記憶力が良いのだ。
情報収集が仕事と言うこともあるかもしれないが。

「滝と綾は大丈夫かな?」
「大丈夫だろう。見つかってもなんとかやるさ」
「タカとくく先輩は?」
「それこそ心配するだけ無駄だ」

守一郎の言葉に答えつつ、先輩方が捉えられている牢を探す。確か隠し部屋で、探し辛そうだと思った記憶がある。
本丸まで行かなくて良いのが不幸中の幸いかもしれない。本丸には知将と呼ばれる城主がいる。

「あっ、三木ここじゃないか?」
「え、ここか?」
「微かにだけど壁の色が違う」

守一郎に言われてよく見てみると、確かにほんの微かに隣の壁の色よりも薄い気がした。しかし本当によく見なければ分からない。
少し力を込めて壁を押せば、回転壁らしくゆっくりと開いた。

「当たりだ。よく分かったな、お前」
「へへっ、委員会のお陰だな」

用具委員会は七松先輩とか浦風とか七松先輩が壊した壁をよく直しているから分かったようだ。まだ入って間も無い筈だが、それだけ直しているということだろうか。さすがだ守一郎、今季の予算は少し考えてやっても良いかもしれない。

「……何を見たとしても、絶対に心を乱すなよ」

隠し部屋に入る前に、久々知先輩からもきつく言われていたことを復唱する。
心が乱れれば隙が生まれる。敵はどこにいるか分からない。常に見られていると思っておかなければ、付け入られるぞ。
そして、何が何でも、どんな状態であっても、必ず全員連れて帰る。

「行ける」
「よし。入るぞ」

守一郎の言葉に頷き、壁を押す。
漂ってきた尋常ではない血の臭いに思わず顔を顰めながら、ゆっくり進む。
死臭らしき臭いが無いことに安堵した。

隠し部屋であることから見張り番はいないと久々知先輩が読んでいたが、それは当たっていたようだ。檻の前には誰もいない。
そして、檻の中には。

「食満先輩……! 潮江先輩に尾浜先輩も……!」

出来るだけ感情を抑え込もうとして失敗したようなくぐもった守一郎の呟きが漏れる。
先輩方はそれぞれ壁についた拘束具で手首を固定されており、怪我もそれぞれ見れたものではなかった。恐らく拷問を受けている。
特に尾浜先輩が酷く、意識があるのかすらもこちらからでは分からない。
とりあえず手当てが先だと漸く暑苦しい変装を解いた。こんなに暑いとは……鉢屋先輩、ちょっと尊敬する。

「先輩方、無事ですか」
「っ、み……三木……!?」
「しゅ、いちろ……!? なんで、ここに」
「とりあえず今拘束を外しますから、少しお待ち下さい」

あらかじめ守一郎に渡されていたヤスリでゴリゴリと削って行く。
やはり尾浜先輩は意識が無いようで、止血もされていないのでかなり出血している。入ってきた時の血の臭いは尾浜先輩のものだったのか。
久々知先輩に渡された救急道具だけで足りるかどうか……。

「三木、勘先輩は俺がやるからお二人を頼む」
「え、だが」
「お前よりは処置の知識もある。ついでに説明もしておいてくれ」
「……分かった」

真剣な目に頷く他なく、大人しく潮江先輩と食満先輩の処置をすることにした。
不機嫌そうなお二人は、きっと私達がここにいることが気に食わないのだろう。
だが、矜恃どころではないこともきっと分かっている。

「手当てをしながら説明させて頂きます」
「……ああ」
「……分かった」

渋々患部を出す二人に苦笑を零す。
いつもは犬猿と言われているくせに、不貞腐れるのは同じなのだから。

「まず今回の件、総指揮はくく先輩です。生物委員会と協力しながら、学園の司令塔も任されていらっしゃいます」
「……くくが?」
「あいつ……戻ったのか」
「はい。仙先輩を連れて戻られました」

念の為任務中の呼称のまま早口で説明すると、二人ともあからさまにほっとしたような表情になる。学園長先生の庵で久々知先輩から先輩方が無事である可能性を聞いた時、私達もこんな顔をしたのだろうか。

「選抜チームの中で帰ってこられたのは仙先輩だけです。今、くく先輩と四年生五人が手分けして救出に向かっています」

ちらりと守一郎の方を見る。確かに私がやるより上手い。尾浜先輩は誰かが背負っていくしかなさそうか。

「……勘は俺が背負って行く」
「え、しかしその怪我……!」
「こんくらいしねえと……くくに示しがつかん」
「……無茶はしないで下さいよ」

応急処置程度では傷口がいつ開くか分からない。潮江先輩は、特に腹の傷が酷かった。捕まった時に刺されたのだろう。
食満先輩は右腕。拷問でやられたのかは分からないが、恐らく当分使い物にならない。
尾浜先輩も絶対安静だ。無茶はさせられない。

「しかし……くくの奴、不眠不休で大丈夫か?」
「ああ……、確か三日程空けていたよな」
「えっ」

二人の言葉に、冷や汗が頬を伝う。
三日任務に出ていて、帰ってきて今度は学友と先輩が捉えられていて……学園全体の総指揮をしながら、私達が動き易いように囮役も買って出てくれた。
……心配になってきた。

「三木、早く滝達と合流して他の先輩方も助け出そう」
「え、ああ、そうだな。先輩方、立てますか?」
「ああ……、」
「……すまん、守一」
「いえ。無茶はなさらないで下さいね」

ふらつく先輩方を支えながら、決めていた滝夜叉丸達との合流場所へ向かう。入り組んだ場所だ、探しながらでは迷子になってしまうだろうと滝夜叉丸が決めた。

「……そういえば……ここの見取り図はどうやって知った?」
「ああ、くく先輩が一度潜入したことがあるらしくて、覚えてらっしゃいました」
「今回、僕達本当にくく先輩にお世話になってばかりで」
「……そう、か。何豆腐催促されっかなぁ……」

食満先輩が遠い目をしながら予言になりそうな未来を呟いている。私も、暫くは先輩に定食の豆腐を献上しようと思う。

さあ、あともう少しだ。



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