フェチ | ナノ

すりすりとわたしの肩――厳密に言えば鎖骨を、実渕くんの指が這う。
ベッドの上、実渕くんの膝の上に座らせられた状態で、鎖骨を撫で続けられてどれだけの時間がたったのだろう、と思うくらいに、実渕くんはわたしの鎖骨を撫で続けていた。最初こそくすぐったかったが、長いことやられているので今はもう慣れてしまったのが何とも言えない気持ちにさせてくれる。

「ねー、実渕くん」
「なぁに?」

心底気が緩み切っているのか、甘ったるく言われる。とりあえず彼から離れようと降りようとするも、彼の腕により引き留められる。見た目にそぐわず甘えん坊だなぁと思いながら、彼の腕から脱出することを諦めて彼に寄りかかる。ふわり、甘い匂いが鼻孔をくすぐった。

「いつまで鎖骨撫でてるの?」
「……嫌だった?」

指の動きが止まり、実渕くんの落ち込んだ声が聞こえる。
嫌ってわけじゃないけど、ただ、鎖骨だけに構われると寂しい。というか、わたしは鎖骨に嫉妬しているのか。自分の体の一部なのになぁ……。それにしても何故鎖骨が好きになったのだろうか。足や胸ならまだ分かるけれど、鎖骨ってそんなにポピュラーなのかな。そんなことを考えていると、ふわぁと欠伸をこぼしてしまう。……眠たい。

「そういえば、実渕くんは何で鎖骨が好きなの?」
「んー……何て言えばいいのかしら。儚げだけど、綺麗なところ?」
「何それ」
「そうね……例えば」

実渕くんの指が再び動きだし、すーっと鎖骨をなぞったり、くぼんだ所をさすり始めた。そのことに驚いてびくりと体を震わせると、実渕くんはくすくすと笑いながら言った。

「こんな風に真っ直ぐだったり、形が浮き出てへこんでたり……そんな所が好きよ。それに、名前ちゃんも可愛い反応してくれるでしょ」
「……実渕くんの馬鹿」
「ふふ、怒っちゃった? ごめんなさいね」

そう言いつつも、実渕くんは上機嫌で指を這わせ続ける。当分、この行為をやめるつもりはないらしい。それならせめて本ぐらい読ませてくれたらいいのに、これじゃ本を取りに行けない。数歩離れたところになら雑誌があるから、それを取りに行かせて欲しい。そう考えながら実渕くんにされるがまま座り続ける。……飽きないのかな。

「そうだ、実渕くん。鎖骨ってそんなに魅力的なの?」
「ええ。少なくとも私には、ね」
「そうなんだ。それじゃあさ、わたしにも触らせてよ、実渕くんの鎖骨」
「いいわよ」

何となくそう言うと、すぐに返事がきた。わたしは即答されるとは思わず、上を向いて実渕くんの顔を見た。彼は穏やかに微笑みながら、わたしの指を彼の鎖骨へと誘導すると、何か固いものが指先に触れた。
これが鎖骨、か。こんなもののどこが良いんだろうか。わたしにはさっぱり分からない。

「どう?」
「どうって言われても……分からないよ」
「そう……。それは残念ね」

実渕くんは溜息を吐くと、わたしごとベッドに横になる。驚いて、思わず目を瞑ると、ギシリとスプリングが音を立て、前からくすくすと笑い声が聞こえてきた。ゆっくり目を開けると、眼前に実渕くんの顔があって胸が跳ねる。
やっぱり実渕くんカッコいいな、と思いながら、ぼうっと実渕くんを見ているだけで鼓動が加速する。好きなんだなぁ、なんて改めて思っていたからだろうか、彼の顔が首筋に寄せられていることに気が付かなかった。

「そうそう、一つ忘れていたわ。もう一つ好きなところがあるの」

気が付いたのは、ちくりと首筋に刺さった痛みを感じてから。慌てて視線を下にやると、うっとりと恍惚に浸っているような表情の実渕くんが見えた。うん、すごく色っぽいです。

「やっぱり綺麗ね」

そう告げる実渕くんの声を聞きながら、当分肩幅の広い服は着れないな、とぼんやり思った。


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Title by ポケットに拳銃



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