フェチ | ナノ

長くたおやかな睫毛を伏せて私の手をジッと見つめる彼はとても美しくて、瞳も唇もその心も、いくら自分のものだと教えられても信じ難い。まばたきを数えるかのように目をそらせない私は、甘く震える心臓をきっと彼に握られているんだろう。

「手を、貸すのだよ」

言われた通り、手を差し出したら彼は躊躇いもなく指先を口に含んだ。私の驚きなんて見向きもせずに、舌を使ってなぞる。やだ、と小さく声を漏らしてもなまあたたかい感触は止まらない。水音が控えめに響くと恥ずかしくて恥ずかしくて、離して欲しいと思うのにうまく言葉にならない。舌先が指の腹をツーッと流れたら分かりやすいほどに反応してしまった。それを見た彼が少しだけ口角をあげるから身体中が熱くなる。本当は気付いている、呼吸が荒くなっていること。私の鼓動の速さなんて知らんぷりして、指の先から付け根まで何度も繰り返し舐め続ける彼、これも普段とのギャップと言うべきなのか。舌で愛撫される度、まるで媚薬を飲まされたように下腹部が疼く。

「…真ちゃんは、エッチだね」

私の言葉が気に食わなかったようで、柔く指を噛まれた。ん、と短く声を発したところで、ようやく口から放され自由になる。彼の唇と私の指先、唾液が糸になって二人を繋いでいるのがたまらなく卑猥だった。

「自分のことを言っているのか?」

すると抵抗する間もなく服の中へ侵入してきた彼の手。私のとは違い細く長くて、爪の形まで整った指が熱くなった身体中を這いずり回る。私はと言うと彼にされるがまま、口からは色づいた吐息しか出なくなっていた。感じているのか?耳元で囁かれると悔しくなって横に首を振る。そんな私の反応を逆手にとって彼はまた指をくわえた。だけど今度は荒々しい愛撫に、ぴちゃぴちゃと、わざと大きな水音。

「私の指、おいしい?」

例えば、子供はオモチャやお金といった目を奪われたものを、構わず口に含む習性があるとどこかで聞いたことがある。普段は落ちついて余裕を感じる彼も、こう見ると大きな子供に違いない。最近よく周りの女の子たちから彼と付き合っていて羨ましいと言われる、紳士で優しくて、とても魅力的な人だと。私もその言葉には頷く、でも彼はそれだけの人間じゃない。こんな、自分の欲望に任せて突っ走ることもあるのだと、そしてその姿も美麗で可愛らしいのだと教えてあげたい。嘘、誰にも教えずに私だけの秘密にしておこう。

「ああ」

私の手は、指は格別に綺麗なわけではない。むしろ彼の方が手入れが行き届いていて、うっとりしてしまう。でも彼が、惹かれる女性の身体の部位にそこを挙げたと知ったその日の放課後に、爪磨きを買った。情報をくれた彼の親友に感謝しながら、少し奮発して上質なハンドクリームを買った。単純すぎるほどに形から入る私、だけど彼は嬉しそうだった、らしい、これも、彼の親友の話。別にそこが気に入らないから愛想を尽かされるわけではないだろう、でもその箇所も好かれたら、もっと嬉しい。しかもそこが彼が女性の一番好きな部分、つまり最も気にかけて欲しい部分なのだと知れば、大なり小なり努力するのは私の中で当然に値した。今こうして彼が好いてくれていることが、何より嬉しい。

「指、」

指先と爪を舌でペロペロと舐められて、深く息を吐く。感じるのを必死に堪えている姿が可愛い、と確かにそう言った。

「誰にも見せたくないと思うのだよ」

そんな独占欲を叩きつけられたら、もう限界だ。彼の名前を呼んで、キスをした。指先だけじゃ、足りない。私の身体も心も、もっともっと深く愛して欲しい。

「…いいか?」

もちろん。優しく食べてね。



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -