フェチ | ナノ

目前にさらけ出された肩が白いことは十二分に知っていたけれど、暗闇の中で見ればまた一段と白いことは今初めて知り得たことだった。季節が移り変わるにつれて上がった気温のせいで、近頃は暑いらしい。寒がりであるとともに暑がりでもある彼女は、キャミソールにスウェット姿という何とも無防備な格好で俺に背を向けて眠っている。男としてはいろいろ複雑だが、まあ、安心してくれているのならそれだけで満足とも言えた。普段、著しい身長差によってあまり目にすることのない眺めを堪能出来るのは良いことだ。

ずり落ちている肩のひもを直してやる。

指先で触れた白い皮膚はなめらかでさらさらとしていて柔らかく、けれど、少し下へと辿っていくと浮き出た肩甲骨のせいか、骨の感触に変わった。男とは違って少し反った背筋。缶を潰したような細い腰。少し強く触れれば簡単に折れてまいそうな身体に一種のおそれさえ浮かぶ。こういうのを線の細い、と言うのだろうか。よく分からない。ただ、女の背中だ、と、無意識に思う。華奢な肩は片手でおさまるのだからやっぱり少しだけこわい。それでも人の心が綺麗なものに惹かれるように、俺の指先は、彼女の皮膚から離れようとしなかった。


「…たい、が?」


やわやわと。
出来るだけ気を付けていたつもりだったが、元々眠りの浅い彼女を起こさないよう触れ続けることには無理があったらしい。眠そうに目を擦りながら小さな顔がのそりと振り返る。肩と同じで片手におさまりそうなサイズ感が愛おしい。身長はもちろん、肩も顔も首も、誤魔化すように握った手だってこんなに小さく、そして細い。それなのに、可愛いだけでなく綺麗に映るのはどうしてか。


「たいが?」


めずらしく舌っ足らずな声をのみこむようにかさついた唇を重ねる。もちろん、大人しく目を閉じて睡眠に戻ってくれるような女ではないことくらい分かっていたので、緩やかな笑い声は想定内だったが、指が絡められたことにはそれなりにびっくりした。細いそれがきゅっと俺の手を握る。そうしてそのままグルンと寝返りを打った。引っ張られた腕が少し痛い。目前にはまた、背中。


「っ急に何だよ」
「大我の手って大きいね」
「おい、無視か」


彼女が大事そうに俺の手を抱える度に俺の身体は彼女の背中に密着せざるを得なくなるわけだが、当の本人は全く気にしていないようだった。肩甲骨のかたい感触が伝わる。何度見ても綺麗な背。こんなに小さくて狭くて守ってやりたくなるくらいだというのに、どうしてか俺をひどく安心させてしまうそれに、俺の心臓ばかりが速く脈を打つ。噛んでみてえ、と思ったのは嘘じゃない。でも怖がらせたいわけではない。小動物のような彼女にとって、きっと俺は獰猛な獣と同じである。下手な真似をして、警戒されたくはなかった。それでも指先というものは勝手に動いてしまうものらしい。掴まれている方とは逆の手でソッとなぞれば、くすぐったい、と彼女は笑った。


「背中好きなの?」
「んー…かもしんねえ」
「ふーん、変な大我」
「嫌か?」


恐る恐る華奢な体躯を腕の中に閉じ込める。俺の片腕はいまだに彼女の腕の中にとらわれたままだったけれど、何となく気分がいい。小さく優しく穏やかな笑い声。何不安そうな声出してんの、なんて、お前が変とか言うからだろ。


「私だけなら嫌じゃないよ」
「は…?それって、」
「他の子の背中なんか見ないでね」


当たり前だバカ。
言うよりも先に顔だけ振り返った余裕たっぷりの瞼に口付けた。


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