フェチ | ナノ

一目惚れってのは、相手の姿を見てびびっとくんのを言うんだっけ。じゃあ、相手の声を聞いてびびっとくんのはなんて言えばいいんだろう?一声惚れ? いや、ちょっと語呂が悪ィか。
まあなんだっていいんだけど、そういうわけでオレは他人の顔よりも声を重視する人間なのである。もちろん、顔だっていい方が好みなんだけど。


「高尾くん、お茶でもどうぞ」
「おーサンキュ」
そう言いながらグラスを二つ机の上に置いて、名前ちゃんはやっと落ち着いたようにオレの隣に座った。自分の家だっていうのに、オレがいるってだけでなんでこうもそわそわと動こうとするかねえ。
いや、そんなとこも可愛いけどさ。
「まあ、どうぞごゆっくりしてください」
「んー、どうも」
ちょっとだけ照れ臭そうなその声も十分可愛い。
なんてことを言うと確実にあっち向いちゃうから、先にぎゅーっと足の間に閉じ込めてやった。名前ちゃんが恥ずかしがるからあんまりスキンシップは計んないけど、まあこういう時くらいは構わないってことで。た、高尾くん、なんて名前ちゃんが慌てた声をあげるから、それだけでもうきゅんとくる。マジで可愛い。もっと色んな声出してくれたらいいのに。
個人的希望としては色っぽい声とか、だけどそれ今出されたらオレがやばいから無理なんだよなー。いやいや、でもここ名前ちゃんの部屋じゃん?上手い具合に家には二人きりじゃん?これいけるんじゃね?もしかするともしかするんじゃね?(浮かれきった脳内で、真ちゃんにめっちゃ冷たい目で睨まれた)

「………高尾くん?」
「いや、なんでもねぇよー」
まさか考えてる内容を悟られるわけにもいかないから笑ってごまかすと、名前ちゃんも「ならいいけど」と安心したみたいに笑ってくれた。
なんつーかその、オレのこと心配してましたみたいな声音と笑顔は反則!可愛い!
「名前ちゃんの声、ほんっと好き」
付き合い出してから何度言ったか分からないことをまた繰り返すと、名前ちゃんはちょっとだけ首を傾げてオレと目を合わしてきた。
「…………声、だけ?」
「ん?」
「高尾くんは、私の声しか好きじゃないの?」
そんなことを言われたのは付き合い出してから初めてで、ほんのちょっとだけ考える。例えば、名前ちゃんの声で顔は他の女子だったら、とか。隣のクラスのあのケバい女子だったり、オレのクラスで一番人気のある女子だったり。
ぱっと考えてすぐやめた。あれじゃ駄目だ。不安げにオレを見つめる名前ちゃんを見返す。あーやべ、その顔すげーそそる。
「んなわけあるかよ」
「……でも」
「でもじゃねえって。オレは名前ちゃんが好きなの。そりゃ声はすげー好きだし、その声でオレの名前呼ばれたりしたら結構やべーけど」
「え」
「いや、なんでもない。だから、」
一息区切って口をつぐむと、名前ちゃんがこてんと首を傾けた。高尾くん?催促されるように名前を呼ばれる。ほんと堪んねえ、そうやってオレの名前を呼ぶ声にどれだけ感情つまってんの。
「オレはちゃんと、“名前ちゃん”が好きなんだよ」
そう言った後、しばらく名前ちゃんから返事はなかった。多分照れてるんだろうなー、いつもそうだし。
「た、高尾、くん」
「んー?」
首元にぎゅっと顔を埋めたら、くすぐったそうに名前ちゃんが声をもらす。めちゃくちゃあったかい。首筋っていいよな、温度も肌触りも、あとにおいも。
ほんと可愛い。冗談抜きで食べちゃい。でもやっぱ怒られるかな、別れるって言われっかな。んなこと言われたら立ち直れないからやらねーけど。オレ達は健全なお付き合いしてますよ。まあ、健全な男子高生には死ぬ程辛いんですけども。

「すき、だよ」

…………やっぱ限界だからもういいかなー、ほんと!


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