フェチ | ナノ


本当に、何がどうなって、こんなことになってしまったのだろう。
私は何故、こんな状況下におかれているのだろうか。

なんて茫然と至らぬ考えを巡らせているうちにも、骨ばった長く真っ白な指は私のふくらはぎを下から上になぞる。ひんやりとした感触がくすぐったくて脚は今にも逃れようとしているのに、有無を言わさない強さで掴まれてはもはやその力も込められない。ただ決して痛いという訳では無いので本格的に彼の行動の意図が読めず困惑し切っていた。

「〜〜ッ、あの……赤司くん?」

こうしてソファに座る私の正面で私の脚に触れる彼との態勢だけを見ると、赤司くんがまるで私に跪いているよう、なんて。征服できたことで少しは良い気分も味わえるかと思われるかもしれないが、残念ながら吃驚するほどそんなことはなかった。彼のしている行為が行為だし、何よりどんな不利な態勢・状況であろうと、彼がきっとそれを枷だと感じることはないだろう。現に、呼びかけた声に顔を上げて反応した瞳にも背筋の震えるような鋭さは健在で、むしろ割増に感じられた。

遠回しに告げた制止にも構うことはなく、膕に手を差し入れて引き寄せそのまま脛に口付けを落とした。その一連の行為があまりに自然だったので、私は抵抗するのも忘れて呆けてしまった。パチパチと目を瞬かせて口を開けた、さぞかし間の抜けた面を晒していたことだろう。

「……ちょっと、いきなり、どうしたの」

ぎゅうっと足の先に力を込めてこみ上げる恥ずかしさを口にすると、私の言っていることが理解できないように視線だけをこちらにやった。

「どうした、と言うと?」
「…足触ったり、その……キスしたりとか。なんで」
「君の脚があまりに美しかったから、つい」

つい、なんて悪びれもせずけろりと言ってみせる赤司君に、早くも降伏してしまいそうになる。いやいや、ここで諦めたらいけない。既に彼の指は今にも脳から命令が下りるのを待っているに違いない。

「恥ずかしいから、やめて欲しいなあ…なんて」

「僕に逆らうのかい?それに目の前にこんなに綺麗な脚が無防備に曝け出されているというのに、触れるなという方が無理な話だろう。据え膳食わぬはなんとやら、だ」

畳み掛けるようにすらすらと紡がれた反論に答える術など、持ち合わせているはずも無かった。というか、彼を目の前にして真っ向から突っかかれる人間がいたらぜひ見てみたいものだ。
口を閉ざしたままにしている私に抵抗の意思がないと思ったのか、行為は続けられる。
身体中の体温が五分ほど上がっていてもおかしくないくらい、恥ずかしさで火照っていて、太腿に触れた彼の手の甲が一層冷たく感じられた。

「名前」

その落ち着いた声に名前を呼ばれて、一瞬力を緩めたときを見計らったように、先ほどまで彼の指があったところに唇が宛がわれていた。それを遮る暇も与えずに、僅かな痛みとともに赤が散らされる。
しばらく消えそうにない跡を見つめて、彼の前では当分脚を晒さないで置こうという決意と、初めて見る彼の一面に密かな優越を覚えるのだった。

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