禁断 | ナノ


「ただいま、」



いつもより長引いたモデルの仕事から神奈川にある自宅に帰宅した頃には時計の針は22時をとうに越えていた。外気の冷たさで赤くなった手で鍵を解除してドアを開けると、タイル敷きの玄関の片隅には自分のものより一回りも二回りも小さいローファーが一足きれいに並んでいる。一緒に暮らす妹の名前のものだ。まあ、妹といっても双子だし、年は一緒なんだけど。

パタンと玄関のドアが閉まる。外の明かりがなくなると一層暗くなったような気がした。部屋の明かりが消されているところからして、名前はすでに眠りについているのだろう。玄関からまっすぐに伸びる廊下の電気をつけて、突き当たり右側にある名前の部屋に足を進める。金属の冷たいドアノブを回すとカチャリと小さく音を立てた。ゆっくりとドアを開け、眠る名前の元へ静かに近づくと、自分と同じ傷みのない黄色い髪の毛と伏せられた長い睫が布団から覗かせていた。自分と同じ顔、でも女の子らしく愛らしいその顔に思わず口元が緩んでしまう。

名前が愛おしいと思うようになったのはいつからだったろうか。気づいた頃には好きになっていた。妹として、家族としてではなく一人の女性として。これがいけないことというのは分かっているけど、今更になって名前に抱くこの気持ちをシュレッダーにかけるように無しにする事はできない。



「名前、」



すうすうと寝息を立てる可愛らしいその唇に触れるか触れないか、気持ちよさそうに眠る名前を起こさない程度に自分のそれを重ねる。ほんの少しの間重ねて離した唇は名残惜しくて、甘美に魅了させるその禁断の果実に、再び手を伸ばしそうになるのをすんでのところで止める。胸に手を当てるといつもより早くトクトクと音を立てている。

ふと枕元で蛍光色に光る名前の目覚まし時計が目に入った。時間が進むのは早くて、今日も残すところ数分というところだ。今日はもうこの気持ちを胸に畳み込んで、名前の部屋をあとにする。



「おやすみ、名前。愛してる。」



最後に眠る名前にそう呟いて、扉を閉めた。






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