禁断 | ナノ

真っ暗な部屋の中、手探りで電気のスイッチを探すオレの手を彼女の細いゆびさきがそっと制した。閉め切られたカーテンにより人工的な明かりは遮断され、その姿は靄の様に霞んで輪郭さえ覚束ない。「…ごめんな、」黒に呑まれた世界でそっと、笑う。玄関の隙間から流れてくる風は少しだけ温くて、それがまるで夢の終わりを捲し立てている様で。柄にもなく泣きそうになってるオレの横で、彼女はただ、立っていた。


「……、」


もう泣かないで欲しいと思うのは、オレの我が儘だろうか。ただ笑っていて欲しかっただけ、と言えばそんなのは嘘なんだから仕方無いのかも知れないけれど。出来るなら笑い合っていたかったのは本当だった。オレと名前とで、幸せに成りたかった。例えば世界中に批難されたって繋いだ手を放さない覚悟はあったけど、それがそもそもの我が儘だったんだと気が付いた時にはもう手遅れだったんだろう。この手は、嗚咽を呑み込む彼女をただ抱き寄せることすら出来なかった。

ぽた、ぽたり。暗く静かな部屋に、煌めいては落ちていく雫が小さなこの世界を埋め尽くしていく。いっそそうして、彼女でいっぱいに満たしてくれたなら、…どんなに。


「…泣くなよ、名前ちゃんてば」

「、かず、くん…」

「はは、相変わらずなきむしだなあ」


純粋にかわいいと思えた、名前はあの頃と何も変わらないのに。どうして、一体いつから妹とは思えなくなって仕舞ったと云うのか。

段段と目が慣れてきたらしく、漸く視認出来た彼女は矢張り口唇を強く噛み締めていて。ああもう、そんな噛んだら血が出んじゃん。ふっと笑みが落ちて、解く様にそれをなぞると想像していたよりもずっと柔らかい感触にどくんとひとつ、心臓が、軋んだ。それはまるで、この繋がった血を忘れるなとでも言う様に。ばかじゃん、まじで。忘れられる程軽くねぇ癖にさ。「…名前、」すきだ。心の中でどんなに叫んだって届かないなら、愛してるなんてくさい台詞でも容易く言える気がした。ああでも、やばいかも、彼女の温度を知って仕舞った手が離れない。オレの理性を越えた感情が、目をまんまるく見開いた名前をとうとう抱き締めたのは無意識のことだった。


「――やべ、」


止まんねぇ、かも。

親が離婚して、ただ、離れて暮らしてた八年間の空白を埋めたかっただけなのに。けれど今更兄妹を始めるにはもう、彼女は女に成りすぎていた。


「、いいよ、かずくん」

「…は、」

「ふたりなら、怖くないよ」


ね?

オレの肩を濡らしながら、名前は震える両腕で必死にオレにしがみつくから。幸せにする、なんて言えないけど、堂々と手を繋ぐことだってカミサマに誓うことだって出来ないけど。この手を取ってくれるなら、「…今からオレのぜんぶ、名前のもんだな」遠いあの日、ずっと一緒だと約束を交わしたあの場所の様に。今度はこの部屋を、ふたりだけの秘密基地にしよう。








劣情に恋する

( 世界で一番小さなその海に、いっそふたりで沈んでみようか )





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