禁断 | ナノ


今、何が起こっているだろうか。
目の前には目を見開いている幸男お兄ちゃん。しかし、その間には距離が無い。つまり、私と幸男お兄ちゃんはキスをしているという訳で。

かれこれ数秒間は唇が重なっている。
目を見開き、じっと固まっている。お互い思考がついていかないのだ。


「わ、ワリっ…そういうつもりじゃ、」

「私、も…ごめんなさい」


やっと離れたと思ったら謝罪大会だ。2人して頭をペコペコ下げ、周りから見たら奇妙な光景だろう。しかし、家には誰もいなくてこの状況を知る人などいない。


何故こんな事になってしまったかと言うと、単純な理由だ。幸男お兄ちゃんと私がぶつかって、転んで、唇が重なってしまった。そんなの少女漫画だけの世界かと思っていたのに、現実でもあるんだな。何て頭の隅で考えていた。

これを不幸中の幸いと言うのか、私はお兄ちゃんの事が好き。お兄ちゃんって言ってるけど、私は従兄妹だし結婚だって出来るのだ。事故とは言え、キスはキス。正直心の中で、今の状況を喜んでいる。


「い、今のは無かった事にしよう!」

「え、」


顔を真っ赤にして、真剣な表情で言う幸男お兄ちゃん。何で、なの?と途切れながらも問いかける。


「俺たち従兄妹だし、お互いコレが、ききききききすなんて思いたくもねーだろ!」

「あ、ちょっと…!」


そんな捨て台詞を残し、自分の部屋へ行ってしまった。家には2人しかいなくて、私にとって最高の状況。しかもキスまで出来るなんて、何て今日はついているんだ。

でも、私は幸男お兄ちゃんから妹の様に扱われている。従兄妹なんて、近すぎるって訳でもないし、女として見られないし、中途半端な存在だ。
お兄ちゃんは分かってないのだ。私達は結婚出来るって事を。先程お兄ちゃんと触れた唇は熱くて、まだ温もりは残っている。


「…お兄ちゃん」


幸男お兄ちゃんの部屋をコンコンを叩き、返答を求める。数秒してから扉が開いた。そこには申し訳なさそうに顔を伏せるお兄ちゃんがいた。


「…さっきは取り乱して悪かった」


女の子が苦手な幸男お兄ちゃんは、さっきの状況の対処法が分からなかったらしい。何ともウブなんだ。しかし、そこが良い所。


「うん、大丈夫だよ。さっきのキス、なかった事にする」

「そうか。名前にはもっと良い奴がいるしな!俺とのは綺麗さっぱり忘れろ!」


そう言って、いつも私に向ける笑顔に戻る。髪をワシャワシャしてきて、凄く痛い。


幸男お兄ちゃんとのキス、忘れる訳ないよ。
大好きな人とのキスなんだから。


ダメだと分かっていても、想いが溢れてしまう。幸男お兄ちゃんの表情を見ると、曇りのない笑顔だ。私が想いを伝えたら、どんな顔するだろうか。


「…好き」


今はボソッと呟くだけ。
臆病な私を許して。





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テーマ「人外ファンタジー」
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