月のない日1


本土、紅海港。

外国人居留区と呼ばれる一画では、夜ごとどこかの屋敷で夜会が開かれる。

地上まで届かない月光の代わりに暗闇を照らすのが、眩い洋燈の光。

華やかなドレスや夜会服を纏う紳士淑女のおおかたは、居留区の高い塀の外では見かけない、色とりどりの髪と瞳だ。

互いの装いを褒めそやしながら心の中で品定めの婦人たちが、ちら、とときおり壁際に視線を投げるようで、

「あれはハーパー宝石店の下のご子息だわ。お連れの方はご友人かしら……髪も瞳も銀色で、ずいぶんと綺麗」

「ええ、本当に。まるで陶器の人形のようですわね」

初めて見るお顔だけれど、どちらの御曹司かしら、と。
噂話は自分たちの衣装から、美しい少年のことへと移るらしい。

「まだお若いようだけれど、十年後が楽しみだわ」

「あら、十年たったらどうなさるおつもりですの」

抜け駆けはずるいわ、と、とうに夫のある婦人たちが高い笑い声だ。




「……これのどこがいい気晴らしだ、クレイ」

寄越される好奇の眼差しと、飛び交う甲高い嬌声とにうんざりした顔で、銀髪の少年が連れの友人を見上げる。
歳の頃は十三、四。
けれど、笑い交わす大人たちを眺める冷めた眼差しにも、ゆったりと腕組みで腰掛ける物腰にも、子どもらしい無邪気さなどは少しも見当たらない。

その大人びた美貌に、つまらないぞ、と睨まれて、隣に立つ栗色の髪の少年がくちびるをとがらせた。

「こんな隅っこでしかめ面をしているんじゃあ、楽しいはずがないだろ、マクシミリアン。少しは自分から楽しんでみようって気持ちを起こしてみろよ。ここには綺麗なものも、美味しい食べ物もたくさんあるんだし、おまえの気に入るものだって見つかるかもしれない」

仏頂面で膝を抱えたきりでいられたのでは気晴らしに誘った甲斐がないよ、とクレイ・ハーパー。

「そうだな……派手に着飾った男女が寄り集まって、作り笑顔で化かし合いをしているのかと思えば、こうして眺めているのも面白いが」

いずれにしろくだらない暇つぶしだと皮肉げにくちびるの端を上げる友人に、クレイが天を仰いでため息だ。

「おまえに、"人並み"とか"普通"って感覚があると思ったのが間違いだったよ」

友人思いの友を嘆かせておいて、マクシミリアンは組んでいた腕を解く。



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