ずっと明けないように感じて 3


なげやりに笑う彼の声を聞いて、わずかに走った胸の痛みを、アランは気づかぬふりでやり過ごす。

「ああ、そうだ。ただの遊びさ」

これまでと同じ、いっときの戯れにすぎない。

「楽しまなけりゃあ、損だよなあ?」

白い脚の片方を持ち上げ、堅く猛ったおのれのもので、ゆっくりと少年の身体を貫いていく。
苦痛に強張る肉壁を僅かずつ押し広げ、すべてを納めてようやく息をつく。
こめかみを伝った汗が少年の腹の上に落ち、白濁と混じり合った。

「は、っ……マクシム――」

堪えきれずに腰を揺すれば、少年がきつく眉を寄せ、伏せた睫を震わせる。
綺麗な銀色の瞳が見えないことが少しばかり惜しい。
冷たい色ばかりを宿す銀灰が、熱に潤むさまを見たかった。

弱いところを続けて責めるうち、少年の苦しげな表情に、異なる色が混じりだす。

「――、……っ」

白い喉を晒し、銀糸の髪をこぼして、快楽に耐える様子が、女よりよほど艶めいて妖しげ。
縄められた両腕がもがいて、重たい長椅子を軋ませる。

一瞬、見開いたあとに、細められた銀の瞳が、涙に濡れて光をはじく。

ぎゅ、ときつく自身に絡みつかれて、

「……く、」
目眩がするほどの快感に、アランはくちびるを噛んだ。
堪えるつもりの熱が、おのれの意志に逆らって溢れていくのを感じて、小さく舌打ちをする。

「っ……く、そっ」

腹に溜まった欲の証を、白い身体の奥に注ぎ込む。
はじける寸前の幼い中心をてのひらに包んで扱いてやると、少年の身体はあっけなく果てて、びくびくと跳ねた。

シャツが汚れるのも構わずに、痛々しいほど震える身体を抱きしめて、アランはぎゅう、と目を閉じる。

与えられた時間は、もう残されていない。

"旦那さま"は、この美しい少年を阿片に酔わせて連れてこいと言ったのだ。

身体を離し、結んだシャツを解いてやりながら、億劫そうにこちらへ視線をくれる相手に苦笑する。

「……起きられるか、マクシム」

「……ああ」

「酷い格好だな。綺麗な顔がだいなしだ」

「そうか」

「なあ……楽しい遊びのあとには、たいてい高い代金を払わされるもんだよな」

火を着け直した煙管を差し出しながら、汚れてもなお人形のように美しい顔を見やると、

「ああ……それも、面白い」

少年が、整って白い面に、色香を滲ませた艶やかな笑みを浮かべる。

躊躇う様子も見せずに煙管を手に取った彼を、呆れて見守るうち、煙に酔った相手の身体がぐらりと傾いだ。

「おっと。そう慌てるなよ」

背を支えながら再び長椅子に横たえてやると、少年がくすくすと珍しい笑い声をこぼす。

「……感謝を、するぞ。おまえのおかげで……」

どこか茫洋とした調子の台詞が、途中から微かな寝息に変わり、

「は。嬉しいね」

眠ってしまった相手の顔を指先で拭ってやりながら、アランは肩をすくめた。

「こっちは、おまえに会っちまったおかげで、えらい迷惑だ」

苦笑しながら、よけておいた赤い紙包みを手に取る。

夜花丹。

使う量を間違えれば、簡単に人の命を奪うという毒薬だが、

「……悪いな。おとなしく眠っててくれよ」

赤い包みから取り出した塊を、香炉に乗せて、火をつける。
甘い香りの煙が立ち上りはじめるのを確かめて、アランは傍らに眠る少年の顔を見下ろした。
冷ややかな眼差しを瞼の下に隠されたマクシミリアンの表情は、年相応に幼く愛らしい。

「まったく、馬鹿だな。おまえには、こんな真似は似合わねぇよ」

滲んだ涙の跡に指を触れて、くすりと笑う。
ほどなく毒は部屋中に満ちるだろう。

「じゃあな、……マクシミリアン」

マクシミリアン、と。
はじめてその名前を呼んで、抱き上げた少年のくちびるに、おのれのくちびるを重ねた。





「旦那さま、だいぶ手こずりましたが、ようやく大人しくなりましたよ。夜花に酔って眠っちまったんで、すみませんが隣の部屋までお越し願えませんかね」


毒花の甘い香りがふわりと立ちのぼり、闇の中に溶けていく。


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