ずっと明けないように感じて 1


後悔するな。
覚悟をしろよ、と。

独白のように呟いたアランが、煙管の吸い口を差し出した。

「一気に吸い込みすぎるなよ。ゆっくりだ」

おのれの欲得のため、年下の子どもを阿片で酔わせようという悪人にしては、ずいぶんと苦々しげな口調だと、マクシミリアンは苦笑する。
言われたとおりに軽く煙を吸うと、ふわりとした眩暈に襲われた。
ぐら、と傾いだ身体を堅い腕に抱き止められて、気付けばぼんやりとした視界に天井の花模様を眺める羽目になる。

ふわふわと身体が揺れているように感じるのは、柔らかい長椅子の綿に全身を抱かれているせいか、それとも吸い込んだ煙のせいなのか。
どちらでもいい、と、心地よさに身を委ねて目を閉じれば、ずしりとした重みが胸に乗り、四肢を封じられる。

「このまま、おまえが正気をなくしたら、」

思いがけないほど近くに、声が聞こえて、

「俺は、おまえをあの爺さんに差し出す」

耳元に熱い吐息がかかった。

「……それでも、いいのか。なあ?」

嗤うように、詰るように、囁かれた問いにマクシミリアンはくちびるを歪めた。

「――退屈せずに、済むのなら」

阿片のもたらす夢は、いかに心地よくとも幻だった。
それでも、満たされる心地よさを知らなかった以前にはもう、戻れない。

飢えを凌げるならばたとえ腐肉でも喰らわずにおれない獣のように、この身はもはやなにかを貪らずにはいられないのだ、と。

――そのことをわたしに教えたのは、おまえだろう。

うまく力の入らない腕で、間近な相手の首を抱く。

甘くなくとも、痛みでも苦しみでも構わない。このからっぽの身体を埋めてくれるものならば――

「はやく、よこせ」

幻ではなく、胸の内を満たす現を、と。

囁けば、は、と背を強張らせた相手が、やがて崩れるように身体の重みを預けてくる。

「まったく、おまえに声をかけたのが間違いだったな……」

参った、とため息ついたくちびるが、マクシミリアンの白い首すじに落とされた。





その腕が見た目によらない力を秘めていることは知っている。
けれどやはり、まだ力強さよりも頼りなさが勝る。
その細くしなやかな少年の腕に首を抱かれた瞬間、負けを悟った。

普段ならば躊躇うはずもない手出しを、こうまで躊躇ったのは、なぜなのか。
それが少年の案外な腕っ節の強さのせいではないことを、アランはようやく自分に認めた。

渡したくないのだ。
あの老人にも、――ほかのだれにも。

冷たく、美しく、ただそこにあって誰のものでもない銀色の宝石。
それをいま、おのれの手に掴んでいるのだとするならば、このまま自分のものにしてしまいたい。

絡みついてくる腕に、彼に求められているかのような錯覚をする。
身体の繋がりなど一時のものだと、わかっていても、それに縋りたくなる。

そんな人の愚かさを、自分は利用する側であったはずなのに。


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