知られたくない秘密


男女のベッドシーンです。あとさり気なく犯罪性の高い(というか酷い)内容なので18歳未満の方、苦手な方はご遠慮下さい。







短くなった蝋燭の灯が瞬いて、古ぼけた寝台の上を途切れ途切れに照らし出す。

くたりと胸にもたれかかってきた柔らかい身体。
さら、と、甘い香りのする長い黒髪が、アランの首筋をくすぐる。
その艶やかな髪を一房、指先に巻きつけて、絹のようにすべらかな感触を味わった。

アランの肩に頬を寄せた少女が、くすぐったそうに笑う。

「アランさま…」

甘やかな声音で口づけを強請るのへ応えてやりながら、アランは銀髪に銀の瞳の少年を思い浮かべる。

初めは、甘やかされて育ち退屈を持て余している、ただ美しいだけの人形だと思った。
けれど、あの硬質な銀灰の瞳は人形などではありえない。

酒やカードをすすめた時の醒めたまなざし。

皮肉に笑んだくちびるの形。

澄ました顔で、荒くれ者の男たちを難なく打ち倒していた。

経験などないはずの物事を前にして少しも怯むことがないのは、恐ろしいことを何も知らないからだろう。
けれど、全てを拒むような、全てを受け入れるような、不思議な銀灰の光の奥に、もっと恐ろしい何かが隠されている気がしてならなかった。

その、奥底に沈められた何かを見てみたい。

たった二度会っただけの、人形のようだと思っていた少年が見せる思いがけない表情をもっと見てみたい、と。

理解しがたい誘惑に駆られているおのれを自覚して、アランはくす、と自嘲の笑みを浮かべた。

「どう、なさいましたの?」

見下ろしてくる少女の顔は、白い花のように美しい。
夜目にも白くなめらかな肌に、大きな漆黒の瞳。
東の国の顔立ちだが、百合のような控えめな美貌が気に入っていた。

身寄りはなく、美しい顔立ちを買われて居留区のある屋敷に侍女として雇われている。

「なんでもねぇよ。それより……明日、例の屋敷に上客が来る」

アランの胸に身を預けていた少女が、白い身体をこわばらせた。

「おまえ、行ってくれるか?」

「……はい」

少女が俯いて小さくそう答えた。

「悪いな、」

口づけて耳元へ睦言を囁けば、細い腕がぎゅう、と首を抱きにくる。

簡単なものだ、とアランはくちびるの片端を上げた。
健気な少女に好意を持たないわけではない。
けれど、金と引き換えに他の男に差し出すことに躊躇いもなかった。

本気で拒むのであれば、自分になど会いにこなければいい。

たとえば金。
たとえば阿片。
たとえば、寝台の上での甘い囁き。

そんなもののために、自分の言いなりになる男女はいくらでもいた。
利用することに、既に罪悪感などない。



あの銀髪の少年も、じきにこの手の中に落ちてくるだろうか――


存外に腕が立つことを知って、力ずくを諦めたが、渡してやった阿片に飛び付くものかどうか。

あれほどの上玉を逃すのは惜しい、と思うと同時に、あの銀灰が阿片に濁ったとすれば何かひどく貴重なものが失われる気がして、アランは知らず眉を顰めた。
間違いなく大金を生んでくれるに違いない極上の"人形"が手に入ろうかというのに、手出しを躊躇うなどどうかしている。


自分らしくもない気の迷いだと苦笑して、アランは胸の内に蓋をするように瞼を閉じると、少女の身体を抱きしめた。



続.



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