闇に身を置くもの4


足音は複数。
使用人にしてはどたどたと品がない。
アランの"お仲間"か、と、階段の上がり口に目をやれば、やってきた男たちがこちらに気付いて足を止める。

「お……見ねえ顔だな」

二十歳ばかりと見える男が4人。
どこかの屋敷の下働きだろうか、粗末なシャツは夜目にもくたびれて、靴には汚れが目立つ。
先客の少年の姿に驚いた彼らは、マクシミリアンの顔を覗き込むとすぐさま頬を緩めた。

「まだガキだが、えらい美形だぜ」

「誰の知り合いだ、おまえ」

「……アラン・バートン」

彼の連れだ、とそっけなく告げると、心得顔の男たちが意味ありげに目を見交わす。

「ああ、アラン坊ちゃんの新しいお人形さんか。そういうことなら歓迎するぜ」

言われてマクシミリアンは眉をひそめる。

「人形とは、どういう意味だ」

「ん? まあ、坊ちゃんが特別に目をかけてる相手ってことさ」

「それにしても、おまえ……本当に人形みてぇだな」

綺麗だなぁ、と、中の一人が呟いた。
呟いて、仲間を見回す眼の中に、危うい光がちらついている。

「なあ、ちょっとだけ……可愛がってやらねえか?」

「馬鹿、アランさんの"人形"だぞ」

「だからだろうが。今を逃したら、俺たちなんぞには手が届かねえ」

最初で最後の好機だぞ、と言い募る台詞を聞いて、男たちが押し黙った。
美しい少年の顔と、仲間の顔とを見比べて、ごく、と喉に唾を飲む。

「た、確かに……これだけの上玉、めったにあるもんじゃねえ」

見逃すには惜しい、とこぼした一人の言葉に、皆の心が傾くよう。

「おい、おまえ、こっちに来な。いい子にしてりゃ、おまえにも楽しませてやるからよ」

最初に妙なことを言い出した男が、急いた様子で腕を掴みに来る。
その手をぱし、と払いのけて、マクシミリアンはくちびるに薄い笑み。

「……いいだろう」

大人しく歩み寄っておいて、ふた周りは背の高い男の腹に、遠慮なしの膝蹴りを入れる。
呻いて腰を折った相手の首を手刀で打てば、あっさりと廊下の床に倒れ込んだ。

「こんなものか、つまらないぞ」

楽しませてくれるのではなかったか、と、冷たい銀灰の瞳を向けてくる少年に、男たちの顔が怒りに歪む。

「このガキっ! よくもやりやがったな!」

仲間が手もなくあしらわれたのを見ていながら、所詮は子どもと侮ったものか、残る三人が闇雲に少年に掴みかかった。

肩に手を掛けようとした一人目の顎を拳で打ち、羽交い締めしにくる二人目をかわして足払いをかける。
怯んだ三人目に高い蹴りを見舞ったとき、ひゅう、と口笛が聞こえた。

「やるじゃないか」

いつの間にか大扉から出てきたアランが、見慣れたにやにや笑いとは異なる驚いた表情を浮かべて立っている。
廊下に倒れて呻く男たちを一瞥して、初めて笑みを消した瞳でマクシミリアンを見た。

「腕力が自慢のジャックたちをひとりで返り討ちか。呆れたな」

「用は済んだのか」

「……ああ、まあな。本当は、おまえに会わせたい人がいたんだが」

らしくなく迷う様子を見せたあと、アランはあたまを掻いて、ため息をついた。

「ま、今日はやめとこう。行こうぜ」

顔見知りらしい男たちが、気まずそうに目を逸らすのを見向きもせずに、もと来た階段のほうへ歩いていく。
無言のままで裏庭へおり、門を出たところでようやく少年を振り返った。
ポケットに入れていた片手を、マクシミリアンの胸元へと伸ばす。

「おまえにこれをやるよ。気が変わらなきゃ、またあのボロ屋敷に来るといい」

言いながら胸ポケットの中に何かを落とし、手の甲でとん、と少年の胸を叩くと、背を向けてひらりと手を振る。

「じゃあな」

向かいの屋敷の窓の明かりが、ふっ、と消えて、去って行くアランの背中を闇の中に覆い隠した。



続.



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