闇に身を置くもの1




所々に洋灯が灯る薄暗い庭へと降りたアランが、ちら、と振り返り、付いてくるマクシミリアンの姿を確かめて笑う。

それきりこちらを見もせずに、庭を抜けて暗がりの道へ。

光に満ちた屋敷からほんの一歩を抜け出せば、月の光も届かない闇の中だ。
華やかな明かりの傍らにあればこそ、周囲の闇はいっそう深い。

言葉も交わさないままで、二人は昼間とまるで異なる顔の家々の前を通り過ぎ、崩れた塀を乗り越えて雑草の茂る庭へと降りた。

「へえ、よく着いてきたな。手を貸そうかと思ったんだが」

崩れているとはいえ、目の前を遮る塀は大人の胸ほどの高さ。
そこへ軽々と上り、ためらいもせず身軽に飛んで降りたマクシミリアンに、アランがひゅう、と口笛を吹く。

「まるっきりのお坊ちゃんってわけじゃなさそうだ。見込みがあるぜ、おまえ」

楽しげな台詞を聞き流しにして、マクシミリアンは肩をすくめた。

「ここはおまえの屋敷か」

「まさか。自分の屋敷の塀を乗り越える必要があるかよ。空き家だ、空き家」

慣れた足取りで、好き勝手に生い茂る木の枝をくぐり、硝子の割れた窓に腕を突っ込んで器用に鍵を外す。

「派手に壊れてるだろう? 修復が面倒で、なかなか次の買い手が付かないのさ。せっかく手をかけて直しても、いつまた本国に戻ることになるか分からないからな。おかげでここは、俺たちのちょうどいい隠れ家ってわけだ」

あばら屋へようこそ、とおどけた礼をしてみせて、アランが割れた窓を開いた。

「お? なんだ、アランか。新しい仲間を連れてきたのか?」

「遅かったなあ、アラン」

小さな燭台を囲んで、年齢も様々な若い男たちが三人。
夜会服のものもあれば、簡素なシャツのものもある。

「ほら、早く入れよ」

促されて窓を乗り越え、ささやかな蝋燭の明かりに近づけば、照らし出された秀麗な容貌に男たちが息を呑んだ。

「……また、えらい美人を引っ掛けたじゃねえか」

応えてアランが、にや、と笑う。
顧みたマクシミリアンへは愛想笑いを見せて、

「こいつらも、おまえと同じで、毎日が退屈でしょうがないやつらさ。来たいとき、来られるやつだけここに来る」

おまえの知らない遊びが、ここにはいくらでもあるぜ、と。

試すようなそそのかすような、曇り空の色の瞳に見下ろされる。
奥底に何かを隠すようなその瞳を正面から見返して、マクシミリアンはくちびるの端を持ち上げた。

「期待しておこう」


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