月のない日4


「それで、昨夜は友だちを一人っきりで置き去りにして、あのバートンといったいどんな悪さをしてきたんだい」

十か十一の歳に出会ってから、付き合いの長さもそれなり。今ではたいていのことは呆れ顔で見逃してくれるクレイ・ハーパーが、翌朝に顔を合わせるなり珍しく棘のある調子での文句である。

人波に紛れて行方をくらました友を、昨夜は夜会会場を照らす洋燈の明かりが消えるまで待っていたクレイだ。
結局戻らなかったマクシミリアンが、今ごろ阿片窟の路地に転がっていやしないかと心配で、帰ってもろくに眠れなかった。

どれだけ心配させれば気が済むのかと迫るクレイに、マクシミリアンは、に、と笑みを浮かべて、

「そうして眉を逆立ててみせるのは嫉妬か、クレイ。心配することはない。望みとあれば、次はおまえも連れて行ってやろう」

「そんなことを言ってるんじゃないよ」

心配しているのは、友だちを取られることなどではないのだと、クレイが語気を強める。

「言っただろ、あいつは危ないって。おまえに近づいたのだって、ただ親しくなりたかったとか、そんな可愛い理由であるわけがない」

何か企んでいるに違いないよと言いつのるのを、マクシミリアンが微笑ひとつで遮った。

「……おまえがそんな顔をする時には、ろくなことを考えていないんだ」

俺の言っていることくらい、とっくに分かっているんだろう、と、いささか拗ねた顔でクレイが口をつぐむ。
無造作に椅子の背に掛けられたままの、借り物の礼服を見やって、マクシミリアンは含み笑い。

「礼を言うぞ、クレイ。おまえに強引に外へ連れ出されたおかげで、母の幽鬼を眺める以外の楽しみができた」

皮肉屋の友人の、常と比べればだいぶ機嫌のいい顔をちら、と見やって、クレイが深いため息だ。
彼を夜会に引っ張り出したのは自分だった。

「おまえが、屋敷の外に楽しみを見つけたっていうのはいいことだけれどね」

どうせなら、余計なことを、と自分が王老人に睨まれずに済むような遊びを見つけてくれればいいものを。

「止めても無駄だと思うから、やっぱりずっと屋敷にいろ、って言うのはやめておくよ。だけど、くれぐれも無茶はするなよ、マクシム」

王老人に小言を食らうのはともかく、おまえの幽鬼と再会するはめになるのはごめんだよ、と。
不安げなクレイの台詞に、幽鬼になったとしたなら、おまえの元に現れるほど暇ではないぞと返しておいて、マクシミリアンは椅子から風よけの上着を取り上げた。

――礼を言うぞ、クレイ。

「おかげで、夜が少々楽しみだ」




続.



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