月のない日3
つれない友人に、クレイが幾度めか分からないため息をついたとき、くくっ、と後ろから笑い声が聞こえて、
「なあ、少しいいか?」
二人よりは少し年上の少年が、こちらへ笑顔を向けていた。
癖のある短い金髪に、曇り空の色の瞳。
甘く微笑んでみせたなら、年頃の娘たちの胸をさぞ騒がせるであろう端正な顔立ちで、
「親の目を盗んで悪さをしたいなら、こんな明るい場所は抜け出さなきゃあな。闇夜に紛れて、少ぅしばかり危ない思いをするのが楽しいと決まってる」
それとも怖いか?と、にやりと笑むのが年に似合わず堂に入っている。
この程度の挑発に乗る性質ではないが、退屈よりは厄介事を好む友人が、下手なことに首を突っ込む前に、とクレイが二人の間に割って入った。
「悪いけど、こいつはもう帰るところだから。そうだろう?マクシミリアン」
「ついさっきまで羽目を外せと言っていたのは誰だ、クレイ・ハーパー。わたしに、自分の他の友人ができるのがそんなに嫌か」
「そんなんじゃないよっ」
顔をしかめるクレイに、に、と笑ってみせて、マクシミリアンが立ち上がる。
「おい、マクシム」
まさか着いていくつもりかい、と慌てるのを押しのけて、
「そうして誘うからには、ましな遊びを教えてくれるんだろうな、大人」
にやにや笑いでこちらを眺めている少年に、"大人"と、そう呼びかけた。
「大人はよせよ。俺はアランだ。アラン・バートン」
「マクシミリアンだ」
「よろしくな、"マクシム"」
こいよ、とアランが踵を返す。
"バートン"と聞いて、マクシミリアンの腕を引いていたクレイは渋面。
「マクシム、だめだ。あいつはまずい。いい噂を聞かないよ」
声をかけられた若い侍女が行方知れずになっただの、どこぞの令嬢が密かに泣かされただの。
おまけに嘘か本当か、阿片窟にも出入りしているという噂。
退屈しのぎというには厄介すぎる相手なのだと、口早に教える。
心配顔のクレイを振り向いて、それならば安心しろ、と嘯くマクシミリアンだ。
「それくらいでなくては、付き合う甲斐がない」
おまえは構わず自分の用を足すといい、と手を振り払われて、クレイが怒り声を上げる。
「なにが安心なんだい。待てよ、マクシム!やめておけって。おい、マクシミリアン!」
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