▽ちぐはぐリミッター


「大人になりたくない。」

ある日、佐治さんがそう言った。

「いやだって…俺受験生だろ?このままお前とサッカーやってたい…」
なんか珍しい佐治さん。勉強にでも行き詰まってるんだろうか。
俺はついこの間まで受験生だった。はやく高校に、少しでも大人になって強い相手とサッカーがしたかった。
入学する学校は間違えたけど全然後悔していない。
「どうしたンスか、急に。」
「わかんねぇ…なんかずっと今が続いて欲しい。」
最後に小さく無理だってわかってるけどとつぶやくのが聞こえた。
誰かが言っていた、停滞は後退と同じだと。
「…どうして俺は吏人と同じ時間を生きれないんだろう。」
「佐治さん…?」
ふわり、と風が佐治さんの長髪を撫でる。
きらり、と佐治さんの長髪が太陽に反射する。
柵にもたれかかっていた佐治さんがひょいひょいと手招きをする。俺は今いる場所から足を離した。
「吏人…」
珍しく佐治さんに抱きしめられる。こんな佐治さん、初めてだ。
「吏人、俺はお前と一緒の時間を生きたい…今が止まればいいと思ってる。」
屋上の柵が佐治さんの体重によって揺れる。
きっと二人分の体重をかけたらこの柵は簡単に崩れるだろう。
「吏人、一緒にきて欲しいところがある。」



ガシャン……

佐治さんに強く引っ張られたが俺は腕を振りほどいた。
落下していく佐治さんの瞳は涙で濡れていた。


さよなら佐治さん。俺はまだ止まれません。



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読み切りが決まってとても幸せ!
佐治さんは受験にも飽きてだったら吏人とずっといたいって思ってて身を投げて…というような…
2012.9.12