※南雲と円堂が同じ雷門中設定です。






触れたい、そう思ってても見てるだけしかできねえんだよ。






「南雲。口が緩んでるぞ。」



気色悪い。そんな酷い言葉をあとに付け加えて言ったのは幼なじみ……いや腐れ縁と言ったほうが良いであろう隣のクラスの涼野風介だ。

「べっ……べつに緩んでなんか…っ」

「ツンデレ気取りか。ますます気持ちが悪いな」

「う、うるせえええ!!!」

昼食を取り終わった午後の教室は白のチョークで拙い絵が描かれている黒板や、昨日放送されていたテレビ番組の話だとか、逆に静かに本を読んでいるヤツだとか。ごく普通の教室だろうな。だが俺の目線の先はこれなかのどれにも当てはまらない。一番窓側の席から暖かい午後の日差しに誘われ、目をグラウンドに向けた。

「また円堂守か」

昼休みにも関わらず、体育の時間かのように周りに人がわらわら集まっていて、その中心部には太陽のような笑顔を放つ円堂守がいた。ほんとにソイツはサッカーが好きで、目に入れても痛くないほどサッカーボールが大好きで。俺の存在なんか知っているのかさえ不安になったりも。そう、俺はあいつが好きなのだ。

「全く、呆れるよ。ただでさえ倍率の高いあの円堂に惚れるなんてね」

「うるせえよ」

ていうか倍率が高いから惚れるんだろ。みんなアイツの良さに惹かれてんだ。

と、またグラウンドに目をやれば俺の周りの時が止まる。そんな気がした。それくらい静かに感じる。グラウンドは賑わっている様子だが、声は聞こえない。そんな時、ふと円堂が振り向き、視線がかち合った。

「っ……な」

顔が熱い。じわじわと込みあげる熱で俺は相当赤面しているのだろうと理解。こちらを見てニッと円堂が笑えばこっちは沸騰直前。

俺はこの恋を実現出来なくても構わなかった。ただここから見ているだけで満足していた。だけど、

「(期待しちまうじゃねーか)」

きっと髪より赤い顔を机に伏せ、頭をぐしゃぐしゃにする。なあ、頼むからそんな顔で俺を見ないでくれよ。自意識過剰なこの脳が煩悩に侵されてしまうだろ。なあ、なあ

昼休みの終わりを告げる鐘の音。気がつけば外には円堂たちはいなかった。涼野もかなり前にいなくなったらしい。ふぅと溜め息をついて視線を戻せば教室のドアががらりと開き、制服のシャツは泥まみれで顔には傷を、両手にはサッカーボールを持った円堂が帰ってきた。自分のロッカーにボールを片付けると、とことことこちらにやってくる。

「え……な?なん……っ」

「南雲もサッカーやらないか!」

「は?」

唐突すぎるこの発言に俺はただ呆然としていた。あまり話したこともなかったこの俺に何故誘いの話が出てくるのか疑問に思った。

「南雲、いつもグラウンド見てるだろ?だからサッカーしたいのかなーって思ってさ!」

「なっ……!!」

いつも…!?俺、そんなに見てたか…!?この穴があったら入りたいとはまさにこのことか。でも、俺が見ていたことを円堂が知っている。それだけ視線が交わされていたその事実が何よりも嬉しくて。

「待ってるぞ!」

また太陽のような顔でそれだけを告げ、たったっと足音を立てて席につく円堂。俺の顔は火照ったまんまだった。

仕方ねーから昼休み、行ってやるよ。視線に込めた想いを、言葉で伝えるために。



視線で告げるアイラブユー



(二人はすでに両思い)



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