部室全体が慌ただしい。

というより、学校全体が あるいは世界全体が

騒がしい。




そりゃ何ってたって今日は、







ーバレンタイン、なのだから。






「円堂君?今日は何の日か・・・知ってるよね?」

「っえ!?何の日だ?・・うぅ〜ん・・サッカーの日・・か?」

「ちがうよ、キャプテン。ひんとはねぇ・・・チョコ。」

「チョコ?なんで食べ物なんだ・・・!?」

「「・・・」」


あれやこれやと、試行錯誤を繰り返すメンバー達。

気づいて気づかぬ振りをしているのだと
残りの希望をフル活用して、円堂にアプローチするものもいれば、

もう完璧に諦めきったものもいる。

遠巻きで見ている俺さえも、あの鈍感さには、ある意味感動を覚えさせられる。

中二にもなって、バレンタインを知らないやつがいるだろうか?

まぁ実際、俺の目の前にいるの
だからどうとも言えない。




「ハァー・・」



小さく吐いたため息は、望みという名のもと


部室のざわめきに、消えていった。






そろそろ部活も終わりを迎え

あきらめの良いやつは、もうポツポツと帰り仕度を始めている。


「俺も、帰るか・・・。」


未だ最後の足掻きと、円堂に食いつく奴らを

尻目に見ながら、部室を出ようとした・・・・




 そのとき




「南雲!!」

「!!」


円堂本人の声で呼び止められ

不覚にも、ドキリとしてしまう。


「・・・んだよ。」

「・・あっ、あのな・・。」



モジモジと下を向いて、言葉を詰まらせる円堂。

部室全体が、緊張した空気に変わる。

俺自身、冷静でいようとはするが、恐ろしいほどのスピードで鳴り続ける心音に、困惑を隠しきれない。


長い沈黙の中、円堂が意を決したように顔を上げる。


「なっ南雲・・・」



 ゴクッ



「俺・・・

 俺と一緒に、ボール片づけてくんねぇか!?」




 ガッシャーン


・・・まぁ あれだ

期待という名の城が、あっけなく・・・

崩れていった音さ。






 ガタン ガタン


ボールを片づけていく音だけが、部室の沈黙に音を生み出した。

あの後、さすがのヒロト達でさえ、もう諦めきってしまい

渋い顔で帰って行った。



もう何分と続くこの静寂・・・

正直、居心地が悪くなってきた。


「・・・っなぁ。えん「南雲!!」どう・・?」

「っあ・・あの・・こんな雑用押しつけて、ごめんな・・」

「いいって、・・気にすんな。」


また、長い沈黙・・・

 何だろう?

今日の円堂は、なんか


ーおかしい





そんなことをぐるぐると考えていたら、後ろから肩を掴まれた。


「・・・円堂?」



 まただ・・

今日二度目の、モジモジ。

下を向き、手を後ろにして

何かを言いかけては、押し黙っている。

正直、こんな姿までもが愛らしいと思う俺は、

かなりの重傷もんだろう。


じれったくはなってきたが、気を長くして待った。

普段なら切キレてかかっているところだが、こんな風になってしまうのも円堂だからだろう。 



「・・・南雲・・っこれ!!」


バッと顔の前に突き出された、可愛らしい袋。

水玉模様の柄の袋が、それに合わせた淡いリボンで結ばれている。

その袋からは、ほのかにだが




 ー甘い、甘いチョコのにおいが、した。




「・・こっこれな、一応手作りなんだ・・・。
失敗しまっくて、メンバーの分作れなかったから
バレンタインのこと、知らない風に振る舞ってたけど、
本当は・・・ちゃんと知ってる。」

「南雲に・・南雲に一番、食べて欲しいから・・・。」



顔を下に向け、耳まで真っ赤な円堂。



 これは、夢なのだろうか・・・。




そんなことを考えつつも、静かに包みを受け取る。




そして

君を

優しく 優しく






 抱きしめる





甘いチョコを包むよう、大事に大事に・・

大切に






 ーきっとコレこそが、




君の上手な愛し方



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -