ぼくは困ってしまった。
 一生けんめい、ここまで練習してきたけど、こういう時、とっさに出来る曲がぼくには、ない。

 隣りでは色々な人が色々な楽器で色々な音楽を奏でていて、どんどん駅からでてゆく。

 ぼくは自分がすごく情けなくて、涙をぼろぼろと流してしまった。

「そんなに難しく考えなくていいんだよ。別に、メリーさんの羊だっていいんだ」

「メリーさんの羊でも?」

 ぼくは笑った。
 駅員さんもぼくが泣きやんだせいか、一緒に笑った。
 急にぼくの頭の中で音楽が流れた。駅のおじさんがいつも歌っている歌だった。題名も知らないって言ってた。でも、お父さんから聞いた曲で、コンサートでも絶対うたわない曲だから特別なんだって。ぼくもたまに口ずさんでみる。

 弾いてみることにした。

 下手でも大丈夫な気がした。回りのひとの目も気にならない。はじめて自分だけの音楽が出来た気がする。おかしな音も沢山だしちゃったけど、ぼくは最後まで弾くことが出来た。
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