「五十分後ですよ、電車は。お忘れな……」

 駅員さんの声はまだ聞こえていた。それは階段を降りるまで続いた。けれど、降りると直ぐに聞こえなくなった。その代わり、改札口のあたりでは人だかりができていて、別の音楽が聞こえて来る。並んでいたぼくに順番が来た。

「はい、君は?」

「あの…ぼく、眠ってて下りる駅乗り過ごしちゃって、一回外に出たいんですけど。それから、切符ないんです。いくらですか?」

 そうして、財布を取り出しかけたぼくを駅員さんは笑った。

「君、高価な切符持っているじゃないか」

 そういって、ヴァイオリンのケースを指差した。

「え、これ?」

「そうさ、お金なんか何の役にも立たないよ。この町じゃあね。それで演奏してくれるなら、君はここを通ることができる」
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