おじさんはいまどんな気持ちでいるんだろう。どうして、ぼくにこんなこと話すんだろう。分からなかった。だけど、胸が締め付けられた。ぼくも本当は言っちゃったんだ。お母さんに。もう、やだ。やりたくないって。お母さんは少し悲しそうだった。それでにげるように駅まで走った。

 突然──
 電車が駅に入って来る音がして、電車を待つ人が一斉に顔を上げた。僕らもそれに続いた。

「少年、電車がお迎えに来たぞ。ほら、行って来い」

 おじさん、ぼくに迎えなんかこないよ。だってやめるっていっちゃったもの。
 そう言いたかった。

「う、うん」

「なんだ、今日はあんまりやる気がないのか?でも俺みたいにやめちゃ、駄目だ。好きなんだろ、それ?……ヴァイオリンだよな、うん」

 自分の言ってることに自分で納得してるのが可笑しかった。でも『うん』とは言えなかった。
 電車に乗り込んでシートに座っても、おじさんは窓の外から手を振っていた。
 ぼくも負けないくらい大きく、腕を振る。しばらくして電車は走り出した。
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