「ああ。ほとんど、親父に無理やり習いに行かされた感じだったけどな。親父みたいになりたいって思ってたのも少しあった」
ぼくは少しうらやましかった。そんな理由、ぼくには無かった。ただ、コンクールとか発表会に向けて理由もわからないで機械のように練習してるだけ。お母さんも意味も無く『練習しなさい』って言ってる気がする。
でも、最初からそんな風じゃなかったはずだ。ヴァイオリンに憧れて、お母さんに無理言って習い始めたはずだったのに。いつからだろう。練習が苦しみに変わったのは。
「でも、無理だった。親父みたいにはなれなかった」
ぼくはおじさんがまた話始めたので、すぐに下がってしまった頭を上げた。
「一度だけ。お前と同じくらいの歳の頃だったと思う。町にサーカスがやって来たんだ。友達と行こうって約束までしてた。でも、親父はそういうものは嫌いだった。動物が出て来て芸をみせるとかそういうのは、野蛮だって言うんだ。そんな暇があるならギターの練習でもしてろって言われたよ」
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