"あなたの全てが好き"
君は少し震えた声でそんなことを言う。照れ隠しに不器用に笑った顔がやけに目に焼き付いて。
あたしは汚れた洋服がぐるぐる回る洗濯層を眺めるのが好きだ。
なんだか、あたしの汚らしい気持ちまで洗われるような気がするから。
君だって、あたしの全部を知ったら、好きじゃなくなるくせに。
そもそも、
あたしには全ても何も、何も持ってないカラッポな人間なのに。
あたしは日曜の午後、泡だらけの洗濯層に思いを吐露して、洗剤の混ざって微かに薄黒くなった水に流してゆく。
そんなことで自分の心がきれいになるなんて思わない。
でも、
好きって言葉があんまりうれしかったから、せめて、君の前だけでは少しでもきれいでありたいと、思ってしまったんだ。
(大丈夫。汚れたら、洗えばいいだけ。カラッポなら作ればいいだけ。手遅れなことなんて何一つないんだから……)