ひとの名前って、そんなものです。
そこにあたかも立派に存在していれば、このひとの名前ってそういう字だったかな、なんて勘違いしてしまうんです。
仕事関係だけの付き合いなら、名前の下の方なんか覚えられないですし。
けれど、課長だか部長だかよくわからないけど、
金縁眼鏡のその人は、いまだ指摘していないんです。
一体、何年違った名札をつけていれば気がすむんでしょう。だいたい、名前の違った名札ならつけている意味が果たしてあるのか、それが第一に謎です。
今更作り直してもらうのに、気がひけるんでしょうか。
その名前で社員登録までされていたら、どうする気なんでしょう。
昇進したとしても、間違えた名前で。
社内恋愛したとしても、彼女に間違えた名前で呼ばれたままで。
婚姻届ではじめて、本当の名前を知られそうな可能性大です。
それでも、彼は名札を恨めしそうに見つめ、でも控え目に自分の机に自分の本当の名前を鉛筆で書き込んでみるのです。
一体、何人のひとが机に気付いて、本当の僕に気付いてくれるだろうか。
あの気になるあの子は、僕の本当の名前を知っているのだろうか。
※賞状の名前が間違えているんです。
【完】