嗚呼、おぞましい狂気が…目覚めてしまう。この気持ちは何だろう。
あの人が居なくなっても、貴女はあの人のものなんだね。僕を見てくれていないなんて。
……こんなの、残酷だ。
「僕が居るよ」
僕は泣きそうな顔で涙を堪えながら、精一杯の気持ちを彼女に訴える。
「そうね」
彼女は僕の前髪を優しく撫でながら、今にも消えてしまいそうな笑顔を浮かべる。
そんな笑顔を向けないで。
「こんなに悲しいのなら、出会わなければ良かったのかな…」
薄い唇に乗せた彼女の悲しすぎる偽りの台詞。
嘘つき。
そんなこと、微塵も思ってないくせに。
「そんなこと言わないで。二人が出会わなければ、僕が生まれてこれないじゃないか」
僕はからかうように軽く笑った。
【完】