ある夏の昼下がり。
訪問者を知らせるチャイムの音が、重苦しい空気を押しのけた。
「あら、リリィ。いらっしゃい。あなたのベビーちゃん、こんなに大きくなっちゃったのね!」
明るい茶色の髪をカールしたリリィと呼ばれた彼女は、片手に我が子を抱きながら、母親に軽やかな笑顔を向けた。
「ママ、ただいま。パパは?」
「パパなら、そこの安楽椅子で寝てるわよ」
リリィが目をやると、窓の近くの安楽椅子には、初老の男性が寝息を立てながら座っていた。
「パパ、なんだか幸せそう」
「あなたがお嫁に行ってから、毎日寂しそうにリリィの写真ばかり見ていたから、あなたの夢でも見ているんじゃないかしら。リリィ、起こしてあげて、パパ喜ぶわよ」
母親はそう言って、微笑んだ。
『パパ、なんの夢みてるの?』
リリィは、幼いころそうしたように、父親の顔を覗き込んだ――。
(それは、僕の宝物の幼い君が、そばに居てくれた思い出。いまなお、色褪せることの無い――まさに僕が一番幸せを感じていた記憶)