「これ戴くわ」

 ある街の宝石店で数分店内のガラスケースを眺めた後、見るも麗しい女は言った。指差したのは大きさが足の小指ほどありそうなダイアモンド。

「かしこまりました」

 いつもの風景。
 この流れるようなブロンドを持つ美貌の女は、毎日の様に贅沢の限りを尽くしている。けれど、これ程に派手な暮らしをしているのにも関わらず、華やかな社交界には決まって現れ羨望のまなざしを一身に受けているにも関わらず、家柄など彼女自身については誰もなにひとつ知らないのだった。

 女は宝石店を出ると、真っ直ぐ今度は靴屋に向かった。
 扉を開けると、店員が急いで女に駆け寄る。

「この間頼んでおいた靴は出来ているかしら?」
「はい、こちらです」

 店員が靴を見せると女は少し眺めた後、口許を緩ませた。

「素敵だわ、包んでいただける?」
「ご試着は宜しいですか」
「結構よ、私の足のサイズはわかっているでしょ」
「シンデレラサイズですね」

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