こうして、数日後、女は男と共に知り合いの資産家の屋敷に行くことになったのだった。
屋敷で現れた資産家の息子は、いかにも箱入りで頼りなさそうに見え女をがっかりさせたが、目の前にガラスの靴が現れた途端、女は眼の色を変えた。
「素敵……」
「では、履いて戴けますかな」
男が言った。恐らくこの屋敷の主人だろう。
この仕方の無い我が儘息子に付き合うなんて、余程威厳の無い父親ねと女は軽く思いながら、頷いた。
女がひんやりと冷えたガラスの靴に滑らかな足を滑らすと、靴はまるで女だけを待っていたかのように簡単に受け入れた。
「あなたが……、そうか」
父親の男は信じられないかのように、女を見つめた。
「だから、言ったでしょう。彼女がそうだと」
パーティで話し掛けて来た男が言った。
「結婚式はいつになるのかしら?」
女は言った。
それに、男は楽しそうに言った。
「結婚は監獄だ。それでもいいのかい?」
「いまさら、何を言うの? 誘ったのはあなたじゃないの」
女はからかうような男の物言いに腹を立てて言った。
「そうか……、そう言ってくれて有り難いよ。監獄に進んで行ってくれるなんてね」
そうして男はにやりと笑った。
「どういう…意味…」
「毎夜のように、街から金品を奪っては贅沢三昧。手掛かりは子供の様に小さな足だけ。やっと、見つけたよ。シンデレラ、君が行くのは本当の監獄だ。警部、これでハッピーエンドですね」
そう言って、男は年老いたもうひとりの男に目配せした。
【完】